リック・バーレスク

第6話

「次の授業までに自分の魔術特性と合う素材についてレポートを提出するように……さっ、飯めし!」


 やる気のない教師が欠伸を噛みしめて次回までの宿題と授業終了を告げるとさっさと図書室から去っていく。生徒たちも伸びをしながら仲間内でランチメニューの相談をしている。


「マティはランチ何にする? 今日はボアカレーがおすすめみたいだよ」


「ゴメン、今日は南棟の食堂に行ってくる」


「ダイエットでもするの? それともスペシャルデザートでも出る?」


 東西南北それぞれの塔に食堂があり、マティ達騎士道学部は西塔の食堂をよく使うため運動量の多い生徒たちに合わせ比較的、肉などのスタミナ料理が多い。魔法工学部の生徒が集う南塔はヘルシー料理が主だが、魔術や脳を使うと糖分を必要とする者が多くデザートが充実している。


「デザートはどうだろう? 休憩中に食べたドードーの唐揚げがまだお腹に残ってる感じだから、さっぱりしたの食べたくて」


「それじゃ、ナッツの蜂蜜炒めが売ってたら買ってきてよ」


「はいはい。あったらね」


 友人達と軽く話した後にクロノスの扉を使い南塔の食堂に移動する。門番をしているケット・シーを観察してみるが、はっきり言って見分けがつかない。毛色少し違っていたりするが注意して見ていないと、行きと帰りで門番が代わっていても気付かないだろう。

 

ケット・シーから南塔の食堂に意識を戻し、食堂内を見回して低学年の集団を探す。種族にもよるのだが、身体が小さくて綺麗に制服を着ている子達は大体低学年の確立が高い。


「娼館の息子のくせに生意気なんだよ!」


 入り口付近で食堂内を見回していたマティの背後で、学術院では早々聞かないような言葉に振り返ると廊下の隅で5人の少年が紫の髪をした小さな少年を囲んでいた。5人の中で一番体の大きな少年はトカゲの血が混ざった種族なのか鱗のある尻尾を振り上げて紫の髪をした少年が持っていた紙袋を叩き落とす。


「女みたいに悲鳴でも上げてみろよ!娼館では客の前でアンアン鳴いてたんだろう?」


 おおよそ少年の口から聞くには卑猥すぎる揶揄に驚きつつも、もしかしたら自分が探しているリック・バーレスクを早々に発見したのではないかと心が躍っていた。


「ほら、鳴いてみろよ!」


 紫の髪をした少年は一切の言葉を無視して落ちた紙袋を拾い上げようとしている。その行動はトカゲの少年をさらに激怒させ、鱗のついた硬そうな尻尾を振り上げ、紫の髪をした少年を撃とうとしていた。


「それはちょっと、やりすぎだよ」


 マティは素早く近づいてトカゲの少年が振り下ろそうとしていた尻尾を掴み、止めに入った。少年少女が寮生活をしていれば小さな小競り合いや喧嘩は日常茶飯事だが、血を見るような喧嘩はご法度だ。


「なっ、なんだよお前!」


「上級生に向かってお前はないんじゃない?」


 トカゲの少年が後ろを振り返り、身長の高いマティを下から睨みつける。マティは掴んでいた尻尾に軽く力を加えて上に引き上げると、バランスを崩したトカゲ少年が前のめりによろけた。

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