第5話

「ゼレストラードのお国柄ってやつ。カリオ先輩とは国が一緒で卒業後に使える駒を一人でも多く揃えておきたいってことだよ。グロムは知らなかったけ?」


 最後に嫌味っぽく知らなかったのかと加えてやれば、今更の噂の種なのだと相手も理解するだろうとあえて言ってやる。グロムはマティの威圧感に苦笑いでそうだったと広げていたノートを閉じて逃げるように去っていく。


「あっ、さっきのゴムほうが良いと思う! 強度とか考えたらエボナイトがいいかも。少し特殊素材だから探すならエト先生に聞いてみたらいいと思う」


 去っていくグロムの背に一応、相談をされた素材についてのアドバイスをすると少し気まずそうにグロムが「ありがとう」とマティに礼を言って今度こそ逃げるように去って行った。

 

 噂話は貴重な情報源にもなり得るので、マティも話題になれば咎めることもなく聞いている。なので、ある程度自分が噂の種になろうと同じ事だと笑って流せるのだが、カリオとのことは笑って色々と流すのが辛いこともあり、身を切る思いで最初に自分が駒だと宣言しなければならない。


(カリオ先輩が卒業したらこんなことも無くなるのかな)


 ぼんやりとそんなことを思いながら、周りに人が居なくなったのを確認して再びポケットから、メモを取り出す。メモにはリック・バーレスクのことが書いてあるが、先ほどカリオと話した内容とほぼ同じで目新しい情報はない。ただ、最後にリックの情報ではないものが書かれている。


「ケット・シーに気を付けろ……なにこれ?」


 ケット・シーで浮かぶのは門番だけだが、もしそれが門番を指すのであれば気を付けることは特にない。寝ぼけている時などに変な場所に門が繋がってしまうくらいで、そこまで警戒するような相手ではないからだ。


(門番とは別のケット・シーを使い魔にしてるとか?)


 妖精や悪魔だと言われているケット・シーを使い魔にしているなんて聞いたことがない。そんな生徒が居たら入学当初から学術院内で噂が回っているはず。


「取り敢えず、本人に会う前に情報収集した方がよさそうね」


 この授業が終われば丁度お昼で、実験室や研究室がある南棟で授業をすることが多い魔術工学部の生徒は大体、南棟の食堂を使用することが多い。情報収集の場所を決め、その情報を元にリック・バーレスクとの接触方法を決めようと大体の計画を立てたマティはメモをポケットに戻そうと、メモたたんでいると片隅に走り書きがあるのに気付く。


「魔力を剣に留めることだけでなく、放出する方向性でも考えろ。一つの武器に固執する必要もない……」


 カリオは抜け目なく卒がない。獅子族は身体も丈夫で身体能力も元々高いので苦手とする魔術の方を高める為に入学当初は魔術学部の黒魔術科の専攻を固めていたが、せっかくの身体能力を伸ばさないのは勿体ないとカリオの強い勧めでカリオと同じ騎士道学部魔術合成科に決めた。生まれ持った身体能力のおかげで剣の上達は早かったがそれに合わせた繊細な魔術コントロールは未だに苦手だ。もしも魔術学部など選んでいたら落ちこぼれも良いところだったとマティはカリオの勧めを今も感謝している。


 マティの中ではカリオはほぼ完璧な人で、そんなカリオが捕まえられないリック・バーレスクとは何者で果たして、カリオからの最後の頼みになるだろう案件を無事に解決できるかどうか不安に思いながら気を引き締めた。

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