依頼

第2話

マティの入学当初に行われた上級生との交流会でたまたま、ペアを組んだカリオが同郷と言うだけで、入学して間もなかった幼いマティに何かと世話を焼いてくれていた。そんな親切で少し顔が良くて頼りになるカリオに恋心を抱いてしまったのは仕方のないことだったのだろう。

 

 だが、マティが2学年に上がったころから関係性に変化が訪れ、雑用なような用事を頼まれるようになった。最初はカリオの役に立てるのならと快く受けていたが、マティも学術院生活に慣れて自分の取り巻く状況が見えてくるとカリオが言っていた「同郷」の意味をするところは、自分がただの駒だと言われていることに気付いた。


 ゼレストラードの貴族出身だということで納得し、淡い恋心は誰に打ち明けることもなく儚く散ってしまった。あっけない失恋に多少のショックと同時に悔しさも沸き上がり、マティもカリオを使って卒業までに自分の為に人脈を広げておこうと割り切ることにしたのだ。食堂前で一度、制服を整えてから入ると騎士道学部の小腹を満たしにきた学院生で賑わっていたが、炎のような真っ赤な髪に体格の良いカリオを見つけるのに時間はかからない。


「マティ!こっちこっち」


 カリオもすぐにマティに気付き片手を上げて呼ぶと、周囲の視線がマティに注がれ嫌な気分を味わいながらカリオのいる席に急いで向かう。テーブルの上にはマティの好物であるドードーの唐揚げとレモネードが置かれている。


「お疲れ様。約束通りのおやつを用意しといたぞ。遠慮なく食べな」


「どうも」


 椅子を引いてマティを座らせるカリオは身体が大きくなっただけで、昔からずっと変わらない。カリオの卒業が迫っているせいか、この頃よく昔のことを思い出して、ふと笑みを溢しながら椅子に座るとカリオは不思議そうにマティに尋ねる。


「どうした?」


「いや、なんかあと何回こうやってオヤツを食べられるのかなって」


「あぁ、俺が卒業しちゃうから寂しいんだ?やっぱりマティは変わらず可愛いな」


「そっちこそ急にどうしたんですか? 気持ち悪いですよ。そこら辺の女の子みたく、簡単にたぶらかされませんよ」


「人聞きの悪いこと言うなよ……まっ、もう可愛いより綺麗って年頃だもんな」


 さらっと年頃のマティの心を擽るようなことを言って人の好い笑顔で頭を撫でられると、からかわれていると分かっていても顔が熱くなってしまう。マティは熱を隠すようにレモネードをがぶ飲みして咳ばらいをしてカリオを睨みつける。


「でっ、今回の依頼はいったい何ですか?」


「そうだった! 大きな声じゃ言えないんだが、毒を盛られたって奴がいてな……」


 カリオが大きな体を縮めてマティの耳元でボソボソと話すと、マティは一瞬止まった後にガタリと椅子を倒して立ち上がる。


「どっ、毒って……」


「なに言ってんだよ!? これぐらい食べたって体の毒になんてならないって!!」


素早くカリオはマティの口を手で塞いで誤魔化すように言葉をかぶせながら、倒れた椅子を戻してマティを座らせると、耳元で落ち着かせるように話す。


「落ち着けマティ。大きな声で話せないていったろ? 分かったら頷いて」


 マティが口を塞がれたままコクコクと頷くと、カリオはゆっくりとマティの口から手を放し苦笑いを見せる。


「大声出してごめんなさい。でも、学術院内で毒を盛られたって、そんなの本当の事件じゃないですか! 私に相談なんかしてる場合じゃないですよ」


「マティ落ち着けって……毒って言っても死に繋がるものでもなくて微妙なんだよ。しかも、盛られた場所っていうのも学術院内ではない。ただ毒らしきモノの出所は学術院内にあるかもしらない」


「毒じゃない? でも、らしきモノの出所が学術院内かもしれないなら然るべき人に報告しなけらばならない事件ですよ」


 興奮気味に真っ当な事を言うマティの様子に頷きながらも、苦笑いを浮かべたままカリオは、頬を指で掻きながら気まずそうに話し出す。


「マティの意見は最もなんだがな……その薬を盛られた場所に問題があって報告するわけにいかないんだよ……」


 いつもならハキハキと話すカリオだが、どこか落ち着きなく言い淀む姿にマティが焦れて問い質す。

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