アラステア王立学術院
第1話
六つの国からなるヴェルシリカ大陸の中心部、アラステアにある大陸唯一の学校「アラステア王立学術院」には12歳から21歳までの様々な人種の若者が魔術や剣術などを学びに、入学してくるのだ。その校内の練兵場で両手で持った長剣と睨み会う長身で青い瞳をした獅子族の少女マティ・コッカーも六つの国の一つ、ゼレストラードから入学した一人だ。
「心を落ち着かせて……剣に魔力を流し込む……」
長剣に蛇のように炎が巻き付いていく様子に少女が安堵の息を吐いた瞬間に巻き付いていた炎は一気に燃え上がる。
「わっ?! あっ、熱い!!」
慌てて持っていた長剣を地面に投げ捨てると男の笑い声が聞こえ、燃え盛っている長剣が凍り付いた。
「相変わらずマティは魔力調整が下手だな」
マティが怒鳴ると同時に頭からバレッタが外れ、輝く金髪がライオンの鬣のように広がると更に男の笑い声が大きくなる。
「その髪も変わらないね」
「さぼりですか、カリオ先輩。からかいに来たなら早く帰ってください!」
怒鳴られた男はマティの2つ上で9年生のカリオ・ゼルビーニ。筋肉隆々な大きな体躯からは想像できない繊細な魔力の使い方をするので、魔術合成科でも稀にみるセンスの持ち主だと一目置かれている。才能と体躯に真っ赤な髪が否応なく周囲から注目を集め、失敗して髪を爆発させているマティに周囲の視線が集まっていることにマティの苛立ちは募る。
「悪いわるい。今日は同郷の馴染みってやつで相談に乗ってもらおうと思ってさ」
「冗談! また、厄介ごとを押し付けに来たんでしょ!」
カリオは軽く笑いながら地面に落ちたマティのバレッタを拾って投げ渡し、凍り付いている長剣を拾い地面に突き立てて刃についた氷を落とした。
「恩を売ってコネを作るチャンスを持ってきたと言って欲しいな」
「それならカリオ先輩が自分で解決したらいいじゃないですか」
「俺は卒業後に国に帰る下準備で忙しいんだよ。それにマティが恩を売ってコネを作ってくれれば、俺に繋がるんだから無駄がないだろう?」
ゼレストラードは暗殺、裏切りなどは貴族の間では日常茶飯事でマティもカリオも殺されない為に寮もあるアラステア王立学術院に入学させられ卒業までに力と人脈を築くことが使命とも言える。そのためカリオが毎度、貴族出身連中の面倒ごとを何かと聞きつけては力を貸している。
「私がポカしたときは、もちろんカリオ先輩が責任取ってくれるってことですよね?」
「その心配はいらないだろう?マティは一度だって俺の期待を裏切ったことないじゃないか」
そう言ってバレッタで髪を整えなおしたマティの頭を撫でてニカッと有無を言わさぬ笑顔で押し切ってくるのはいつものことだ。
「分かりました。もう授業も終わりますし、着替えたらすぐに行きますから食堂で待っててください」
「おやつの準備して待ってるな」
ヒラヒラと手を振り食堂に向かうカリオに舌打ちしながらマティは地面に刺さった長剣を抜き取り、着替えに向かった。
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