夜に

夜は深く静まり返っていた。

月が雲間から顔を覗かせ、街外れのコウタたちの住まいを冷たい光で照らしていた。

エレナとリーナは寝静まり、コウタもようやく重い瞼を閉じようとしていたが、ふと、外からかすかな気配を感じた。


「……誰か来る…?」


コウタは立ち上がり、剣を手に窓の外を覗いた。

すると、見覚えのある三人の影が静かに忍び寄っているのを確認した。


「また奴らか…今度は夜襲かよ…」


アグラッド、バルト、グリンの悪漢三人組だ。

彼らは昼間の対決で一度は引き下がったが、まさか夜中に再び襲撃してくるとは思わなかった。

しかも、何かが明らかにおかしい。彼らの動きは不自然で、時折、体が痙攣するように震えていた。


「エレナ、リーナ、起きろ!やつらがまた来た!」


コウタが急いで二人を起こすと、エレナは寝ぼけまなこで杖を手にし、リーナもすぐにナイフを構えた。

皆、眠気を振り払って戦闘態勢に入る。


「しつこい奴らね…一度追い返したのに…」


「何かがおかしい…さっきとは違う…」


リーナも鋭い目で状況を察し、体を固めた。


家の扉を激しく叩く音が響き渡り、そのすぐ後には壁越しに強烈な衝撃が襲った。

アグラッドが大斧で一撃を加えたのだ。

壁には大きな亀裂が入り、今にも壊れそうな様子だった。


「出てこい!お前ら、俺たちの相手がまだ終わってないぞ!」


アグラッドの怒鳴り声が夜空に響き渡る。


「奴ら、ただの人間じゃないわね…」


エレナが呟き、すぐに防御の魔法を唱えた。


家の扉が勢いよく吹き飛ばされ、三人の悪漢が暗闇の中から姿を現す。

アグラッドの目は血走り、バルトとグリンも異常な雰囲気を纏っている。

彼らの動きは速く、攻撃の勢いは昼間とはまるで別人のようだった。


「コウタ、エレナ、気をつけろ!彼らは何か薬を使ってる…!」


リーナが叫びながら、素早く攻撃をかわし、バルトとの距離を取る。


「お前ら、普通の人間には見えないぞ!?」


コウタは剣を構え、アグラッドの振り下ろす斧をギリギリで受け止めたが、その衝撃に手が痺れた。


「くそ、力が段違いだ…!」


アグラッドは不敵な笑みを浮かべながらコウタを睨みつけた。


「薬のおかげでな、俺たちは今、限界を超えているんだ…どうだ?感想を聞かせてもらおうか?」


彼らの動きは狂気的で、攻撃はまるで一方的な暴力のように荒々しく、しかも正確だ。


バルトもグリンも、何かに取り憑かれたかのように激しく動き回り、三人で連携して次々と攻撃を仕掛けてくる。


戦いが激しさを増す中、コウタたちはじわじわと追い詰められていた。

エレナの魔法で防御を固めてはいるが、アグラッドたちの攻撃は一瞬の隙も与えず、次々と押し寄せる。

傷が増えていくコウタたちは、じりじりと後退し始めた。


「これ以上は無理よ…!」


エレナが焦りの声を上げるが、アグラッドはさらに不気味な笑みを浮かべた。


「お前ら、俺たちの強さの秘密を知りたいか?これはな、ただの薬じゃない…妖精の秘薬だ。妖精の人体実験で作られた強化薬なんだよ!」


その言葉にコウタもエレナも驚愕した。

妖精の魔力を利用した人体実験の噂は耳にしていたが、まさかそれがここで使われているとは思わなかった。


「こいつは純度の高い高級バージョンだ。これを飲めば…お前たちなんて、ただの虫けらだ!」


アグラッドは腰から小さな瓶を取り出し、中の液体を一気に飲み干した。

続いてバルトとグリンもそれぞれの瓶を飲み干す。


すると、三人の体はみるみる巨大化し、まるで魔物のように変貌していった。

アグラッドの筋肉は隆々と膨れ上がり、バルトとグリンもその姿は異常に肥大化し、もはや人間とは思えない怪物じみた姿となった。

凄まじい速度と威力の攻撃に吹き飛ばされるコウタ。


「なんだ…これ…」


コウタはその圧倒的なパワーに圧倒される。


「これが…妖精の秘薬の力…?」


エレナも愕然として、魔力を最大限に使って防御を固めるしかなかった。



圧倒的な力で攻め込んでくる悪漢三人組。

巨大化したアグラッドの一撃は、コウタが防御魔法で防いでも、まるで砕けるように重い。

バルトは素早く動き回り、グリンは遠くから凄まじい力で矢を放ってくる。


「エレナ!リーナ!このままじゃ押し潰される!街に逃げ込むしかない!」


コウタは叫び、二人に合図を送る。


「わかったわ!ここじゃ戦いにならない…一旦退却しましょう!」


エレナもすぐに同意し、魔法で足止めをしながら後退する。


リーナは素早く周囲を見渡し、退路を確保した。


「ついてきて、こっちだ!」


三人はなんとか巨大化した悪漢たちの猛攻をかわしながら、街の方へと逃げ出すことに成功する。

だが、アグラッドたちはその後をしつこく追いかけ、街中でのさらなる戦闘が避けられない状況となっていた。


「くそ…街に逃げ込んでも、こんな怪物相手にどうすれば…!」


コウタは息を切らしながらも、なんとか次の策を考えようとする。


「何とかしないと、街の人たちが危険だわ…」


エレナも必死に頭を回転させていた。


このままでは、街全体が巻き込まれる戦いに発展する可能性がある。

コウタたちは、なんとか打開策を見つけ出さなければならない。

次第に迫りくる悪漢三人組の気配が、彼らの背後からひたひたと追ってきていた。

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