再び


三人は、フェルデンのギルドで新しい依頼を受け取るために訪れていた。

昼過ぎのギルドは賑やかで、冒険者たちが次々と依頼を確認し、討伐や護衛などの任務に取りかかっていた。

コウタたちもまた、自分たちに合った依頼を探していた。


その時、ギルドの入口が騒がしくなり、周囲の冒険者たちがざわつき始めた。

コウタが振り返ると、見覚えのある大柄な男が現れた。

彼は鎧を纏い、凄まじい威圧感を放っていた。


「アグラッド…!」


コウタは思わず呟いた。

後ろには、アグラッドの右腕であるバルトと狡猾なグリンも続いていた。

三人組はその場の空気を凍らせるように静かに歩を進め、コウタたちの近くで立ち止まった。


「やあ、久しぶりだな…坊主。」


アグラッドは薄笑いを浮かべ、コウタを見下ろした。


エレナは冷静に睨み返すが、すぐに状況の危険さに気づき、コウタの腕を軽く引いた。リーナも少し緊張した表情を見せている。


「何の用だ、アグラッド?」


コウタは冷静を装いながら問いかけたが、心の中では警戒心を強めていた。


「簡単な話さ…その女たち、俺たちの仲間にならないか?ひょろい坊っちゃんよりも俺達が優遇してやるよ、特に体をな…」


アグラッドは下卑た笑みを浮かべながら、二人の女性を見下した。


その言葉に、エレナの表情は怒りで硬直し、リーナは眉をひそめてアグラッドを睨んだ。

コウタも激しい怒りがこみ上げてきたが、ギルド内では不用意に戦いを挑むのは避けるべきだと判断し、冷静に対処することを選んだ。


「断る。二人は誰にも渡さない。」


コウタは毅然とした口調で答えた。


アグラッドは短く笑い、後ろのバルトとグリンもそれに続いてニヤリと笑みを浮かべた。


「まぁ、そう言うだろうな。だが、俺たちはしつこいぞ。気をつけろ、坊主…」


アグラッドはそう言い残し、三人組はその場を去っていった。


ギルドを出た後、コウタたちは自分たちが後をつけられていることに気づいた。

エレナが小声でリーナに話しかける。


「気づいた?後ろにいるわね…」


「ええ、間違いない。あいつら、私たちをつけてきてる。」


リーナが鋭い目で背後を確認した。


「奴ら、どうやら戦う気満々のようだな…」


コウタは重い息を吐きつつ、少し振り返った。

そこには、少し距離を置きながらも確実についてくるアグラッドたちの姿があった。


エレナは冷静さを保ちながらも、戦闘が避けられないと感じていた。


「ここでは騒ぎを起こせない。でも、自宅の近くでなら…」


「家の近くでなら、思いっきり戦えるね。」


リーナが頷いた。


三人は家に戻る道を急ぎながら、戦いに備える準備をしていた。


「奴ら、そろそろ攻撃を仕掛けてくる頃だ。準備はいいか?」


コウタが二人に確認すると、エレナは杖を握り、リーナもナイフを取り出した。


「ええ、準備万端よ。来なさい、あいつらに思い知らせてやるわ。」


エレナは力強く答えた。


コウタたちが自宅近くの路地に差し掛かると、悪漢三人組がついに動き出した。


「ここまでか、逃げられねえぞ!」


アグラッドの声が響き渡り、彼は戦斧を構えながら前に出た。

バルトは素早く後方に回り込み、グリンは弓を構えて遠距離から攻撃の機会を狙っていた。


「ここでやるしかないな…!」


コウタは決意を固め、剣を抜いた。


まず最初に動いたのはアグラッドだった。

巨大な戦斧を振り下ろし、コウタに向かって突進してきた。

その圧倒的な力に対抗するため、コウタは俊敏に身を翻し、エレナとリーナと共に反撃の態勢に入った。


「リーナ、後衛を頼む!」


コウタが指示を出すと、リーナは迅速に身を潜め、バルトやグリンに警戒を向けた。


「私が先に仕掛ける!」


エレナが魔法を唱え、火炎の魔法をアグラッドに向けて放つ。

だが、アグラッドはその炎を素早く盾で弾き、逆に間合いを詰めてきた。


「なかなかやるじゃねぇか、だが俺には通用しないぜ!」


アグラッドは笑みを浮かべながら、再び大斧を振りかざす。


しかし、コウタはその隙をついて素早く彼の横腹に剣を打ち込んだ。

アグラッドは痛みで顔をしかめたが、そのまま戦意を失うことなく攻撃を続ける。


一方、リーナはバルトの動きを見極めながら、その毒の罠を避け、距離を取り続けた。


「お前たちみたいな奴ら、斥候には通じないわ!」


そう言って、リーナは鋭い投擲ナイフをバルトに向けて投げつける。


ナイフがバルトの肩に刺さり、彼はたまらず後退した。

グリンも遠距離から狙撃を試みたが、コウタのソナーの技術で彼の位置を察知され、矢を回避されてしまう。



激しい戦いの末、コウタたちはついに三人組を追い詰めた。アグラッドは傷を負い、バルトとグリンも撤退を余儀なくされた。


「覚えていろ…!このまま終わると思うなよ!」


アグラッドは捨て台詞を残し、三人組は街の闇に消えていった。


コウタたちは深く息をつき、ようやく戦いが終わったことに安堵する。


「奴ら、これで終わりじゃないわね…」


エレナは警戒心を緩めず、コウタに向かって言った。


「そうだな、いずれまた奴らと戦うことになるだろう。だが、次はもっと準備を整えて臨もう。」


コウタは決意を新たにしながら、剣を鞘に収めた。


こうして、一度は悪漢三人組を退けたものの、彼らとの再戦は避けられない未来となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る