講師
翌日、コウタ、エレナ、そしてリーナの三人は、一緒にギルドの扉を押し開けた。
中に入ると、ギルドはいつも通りの活気に満ちていた。
冒険者たちが依頼の掲示板に目を向けたり、カウンターで報酬を受け取ったり、時には互いに情報を交換し合っていた。
コウタたちも、次のステップに向けた準備を整えるためにここに来た。
今日の目的は、リーナに初心者講習の講師を頼むことである。
ギルドのカウンターに向かい、コウタは対応しているギルド職員に声をかけた。
「すみません、初心者講習のことで少し相談があるんですが…」
ギルド職員はにこやかに対応しながら、書類を整えて振り返った。
「はい、どういったご相談でしょうか?」
「実は、リーナに僕たちの初心者講習をお願いしたいんです。彼女、元Cランクの冒険者で、斥候としての経験が豊富なので、色々と学びたいと思いまして。」
職員はリーナの方に視線を向けて、少し驚いた様子で頷いた。
「リーナさんが講師を務めるのですか。それは素晴らしいですね。彼女の経験なら、初心者向けの講習にはもってこいです。しかし、講師としての登録が必要ですので、その手続きを行う形になりますが、大丈夫ですか?」
リーナは少し戸惑いながらも、真剣な表情で頷いた。
「うん、大丈夫よ。私ができる範囲で、コウタたちに教えてあげるわ。」
「ありがとうございます、リーナ。本当に助かるよ。君の経験は本当に頼りになるから、よろしくお願いするよ。」
コウタは安心した様子でリーナに礼を言った。
エレナも、リーナに優しい笑顔を向けながら
「リーナの教えがあれば、私たちもきっともっと早く成長できると思うわ」
と言った。
ギルド職員は、リーナの講師登録を進めながら、にこやかに言った
「では、リーナさんの初心者講師としての登録を完了させますね。講習の内容についても、リーナさんのご経験に基づいて自由に計画していただいて大丈夫です。初心者向けの依頼をこなすことで、基礎をしっかり学べると思いますよ。頑張ってくださいね。」
ギルドを出た三人は、静かに通りを歩きながらこれからのことを話し合った。
リーナが正式に彼らの講師となり、初心者として基礎を学び直す準備が整った。
コウタは、リーナに対してますます信頼を寄せるようになり、彼女に告白しようと思う秘密が心の中で大きく膨らんでいった。
その日の夕方、コウタは思い切ってリーナとエレナを近くの公園に誘った。
夕暮れ時の静かな雰囲気の中で、彼は心の奥底に抱えていた大きな秘密をリーナに打ち明ける決心をしていた。
リーナはこれから彼らの講師として助けてくれるが、それと同時に、コウタ自身の秘密を知ってもらうべきだと思ったのだ。
三人はベンチに腰掛け、静かな風が心地よく吹く中、しばらく無言でいた。
エレナは静かにコウタの顔を見つめ、何か言いたいことがあるのを感じ取っていた。
「リーナ、ちょっと話があるんだけど…」
コウタは静かに口を開いた。
「ん?どうしたの?何か真剣な顔してるけど。」
リーナが首をかしげる。
コウタは一瞬、迷いながらも決心を固めた。
「実は…僕、転移者なんだ。この世界の人間じゃない。もともとは、別の世界に住んでたんだ。」
リーナは驚いたように目を見開いた。
「え?転移者って…まさか、異世界から来たってこと?」
コウタは頷きながら続けた。
「そう。僕のいた世界には魔法もなかったし、冒険者なんて職業も存在しなかったんだ。ある日、突然この世界に飛ばされて、最初は何が何だか分からなかった。でも、今はこの世界で生きていこうと思ってる。」
リーナは一瞬、呆然としたようにコウタを見つめた。
「そうだったんだ…。だから、君はこの世界の常識とはちょっと違う感じがしてたんだね。でも、転移者って…あんまり聞いたことないわ。」
エレナが静かに口を挟んだ。
「私も最初は驚いたわ。コウタの話すことや考え方が、私たちの世界のものとは違ってるから。でも、彼の知識や発想は、私たちにとって新鮮だし、とても役に立つのよ。」
リーナはしばらく考え込み、やがて小さく笑った。
「ふふっ、だから君は時々おかしなことを言ってたんだね。でも、コウタの知識や提案は、どこか合理的で理にかなってる部分もあった。転移者だからって特別扱いするつもりはないけど、ますます興味が湧いたわ。君がどうやってこの世界で生きていくのか、見てみたくなった。」
コウタはほっとしたように笑みを浮かべた。
「ありがとう、リーナ。君に話しておかないと、何か隠してるみたいで心苦しかったんだ。」
リーナは軽く肩をすくめた。
「それにしても、転移者って…。私たちからすれば驚きだけど、君にとっては大変だったんじゃない?全く知らない世界に突然来ちゃったわけでしょ?」
コウタは苦笑しながら頷いた。
「最初は本当に大変だったよ。でも、この世界にも慣れてきたし、エレナと出会えたのも大きかった。だから、今はそんなに苦じゃないかな。」
リーナは頷きながら、
「そっか。じゃあ、君も立派な冒険者としてこれからやっていけるわね。私も初心者講習でしっかり教えるつもりだから、覚悟しておいてよ。」
エレナが笑顔で頷いた。
「そうね、リーナの教えがあれば、私たちもどんどん成長できるわ。コウタもこれで心の荷が軽くなったでしょう?」
コウタは静かに頷き、夕暮れの空を見上げた。
「うん、ありがとう。これでスッキリしたよ。」
その後、三人は少し笑いながら街を歩き始め、これからの初心者講習に向けた話をし始めた。
リーナの手厚い指導があれば、これからの冒険がますます楽しくなりそうだとコウタは感じていた。
そして、心の中に抱えていた秘密を打ち明けられたことで、コウタは少しだけ自由になれた気がした。
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