生活の準備

清掃が終わり、家が住める状態に整ったところで、次に3人は生活用品を揃えるために街へ出かけることになった。

新しい家での生活には、食器や調理器具、寝具、そして日用品など、細々とした物が必要だ。

3人はリストを手に、街の商店街を回ることにした。


「まずは、基本的な調理道具と食器を買わないとね」


コウタがリストを確認しながら言った。


「そうね、それと寝具も揃えないといけないわ」


エレナがコウタの隣を歩きながら答える。


「でも、思ってたより物が多くなるかもね。持てるかな?」


リーナは少し心配そうな表情で言ったが、その顔にはどこか楽しさも混じっていた。


コウタが先頭に立って進むが、彼は時折2人にちらりと視線を送る。エレナとリーナは、冒険者としては慣れているとはいえ、やはり女性らしい雰囲気を持っている。

商店街を歩いていると、周りの男性たちが彼女たちを一目見るたびに視線が集まるのが感じられ、コウタは妙に落ち着かない気持ちになる。


「……なんか、みんな見てないか?」


コウタが小声で言った。


「見てる? 誰が?」


エレナが首をかしげて答える。


「いや、なんでもない。きっと気のせいだよ」


コウタは苦笑いを浮かべ、視線をそらした。

しかし、確かに周囲からの視線は増えている気がする。

特に彼女たちと一緒に歩いていることで、男たちから嫉妬の目を向けられているのが分かる。


「ふふ、コウタ、なんだか顔が赤いよ?」


リーナがからかうように微笑みながら言った。


「そ、そんなことないだろ! ただ、日が差してるだけさ」


コウタは慌てて答えたが、内心では妙にドギマギしていた。

普段はこんなに緊張することはないのに、街中でエレナやリーナと一緒に歩いていることで、周りの目が気になり始めていた。



「さて、次は寝具と、あとは…」

エレナがリストを見ながら次の店に向かおうとしたとき、ふと何かを思い出した。


「あ、ちょっと待って。ついでに下着とか女性用のものも買わなきゃ。リーナ、こっちの店に行きましょ」

エレナはリーナに声をかけて、2人で一緒に女性用品の店に向かおうとした。


「え、え、俺は…?」


コウタが不安そうに尋ねた。


「コウタは外で待ってていいわよ。すぐに戻るから」


エレナが軽く手を振り、リーナも笑顔でうなずいた。


「そうだね、男の人がこんな店に入ると変な目で見られちゃうかも。ちょっと待ってて!」


リーナも楽しそうに答え、2人はそのまま女性専用の店の中に消えていった。


コウタは店の外で待つことになったが、その間、何とも言えない妙な緊張感に包まれていた。

女性用の下着やら日用品やら、彼自身が買うわけでもないのに、彼女たちがそれを選んでいると思うと、どうしても顔が赤くなってしまう。


「ったく…なんでこんなにドギマギしてるんだ、俺は…」


コウタは自分に言い聞かせながら、店の外で視線を落とした。


しばらくして、エレナとリーナが笑いながら店から出てきた。

2人とも小さな袋を持ち、楽しそうに話している。


「お待たせ。さ、次に行きましょ!」


エレナが軽快な声で言った。


「すごく可愛いのがたくさんあって迷っちゃったけど、無事に買えたよ!」


リーナも満足そうに微笑んでいた。


「そ、そうか…良かったな」


コウタは何とか平静を装いながら、2人に続いて歩き出した。

しかし、頭の中ではまだ、先ほどの光景がぐるぐると回っていた。


生活用品をひと通り買い揃えた3人は、そのまま家に戻り、夕食の準備を始めることにした。

買ったばかりの調理器具を使って、コウタが料理の腕を振るうことになったが、エレナとリーナもそれぞれサポートすることに。


「よし、俺がメインで料理を作るから、2人は材料の準備を手伝ってくれ」


コウタが指示を出し、3人で手際よく作業が進んでいった。


エレナは野菜を刻んで準備し、リーナは調味料を測ってサポートしていた。


調理中、コウタはどうしても2人と近距離で作業をすることになり、特にエレナが包丁を使っているときには、その手元を見て注意深く指示を出す必要があった。


「エレナ、もう少し細かく切った方がいいぞ。ここをこうして…」


コウタは手を取って教えるつもりが、ふとエレナとの距離が近すぎることに気づいた。


「あ、ありがとう…」


エレナは少し照れた様子で答え、コウタもその瞬間に顔が赤くなってしまった。


「い、いや、別に何でもないんだ…気にしないでくれ」


コウタは慌てて距離を取ったが、エレナの頬も少し赤くなっているようだった。


リーナはその様子を見てクスクスと笑っていた。


「なんだか、2人ともドキドキしてない?」


「ち、違うよ! ただの料理だろ、普通の!」


コウタは必死に否定したが、内心では確かにドキドキしている自分がいた。


なんとか料理が完成し、3人はテーブルに座って夕食を楽しむことに。

コウタが腕を振るった料理は、シンプルながらも美味しそうな香りが漂っていた。


「うん、コウタの料理、思ったより美味しいじゃん!」


ーナが驚いたように言いながら、一口食べて満足そうに微笑んだ。


「ありがとう、リーナ。簡単な料理だけど、みんなで食べると美味しいね」


コウタは少し照れながら答えた。


「確かに、こうして一緒に食べると美味しいわね。それに、共同生活も悪くないかも…」


エレナも微笑んで言った。


「そうだな…これから毎日こんな感じでやっていけるといいけど」


コウタは満足そうに頷き、3人での食事を楽しんだ。



夕食を終え、3人は新しい家での生活に向けて少しずつ準備を進めていた。

引っ越し当日の慌ただしさはようやく一段落し、家の中は徐々に落ち着きを取り戻していたが、その日の最後の楽しみはなんといっても「お風呂」だった。


この家の浴室は広々としており、贅沢な造りだ。

街ではあまり見かけない大きな浴槽に3人は心を弾ませていた。


「さて、今日は魔法でお湯を沸かしてみようか。エレナ、お願いできる?」


コウタがリビングでリラックスしながらエレナに声をかけた。


「もちろん。少し時間はかかるけど、すぐに準備するわ」


エレナは立ち上がり、浴室へと向かった。

彼女は自信に満ちた表情で手をかざし、魔力をゆっくりと浴槽に送り込んだ。

魔力が浴槽に注ぎ込まれると、冷たい水が次第に温かくなり、心地よい蒸気が立ち上がっていく。


「うん、これでお風呂は完璧ね。先に入る?」


エレナがリーナに声をかけた。


リーナは笑顔で首を振った。


「ありがとう。でも、エレナが最初に入ってよ。私は後でいいから。」


「じゃあ、お先にいただくわね。」


エレナはそう言うと、浴室へと入っていった。


エレナが風呂に浸かっている間、コウタはリビングでリラックスしようとしたが、どうしても気持ちが落ち着かなかった。

ふと、さっきのエレナの姿が頭に浮かんでしまう。

普段は冒険者として凛々しく見える彼女だが、お風呂に入る前のリラックスした姿には、どこか女性らしい魅力が漂っていた。


「……やばい、何を考えてるんだ、俺は…」

コウタは自分に言い聞かせながら、顔を赤くしていた。


しばらくしてエレナが湯上がりの姿でリビングに戻ってきた。

彼女は長い髪をタオルで軽くまとめ、頬はほんのり赤く、何とも言えないリラックスした表情をしていた。


「ふぅ…やっぱり広いお風呂はいいわね。」


エレナが満足そうに呟く。


コウタは再び顔を赤くしながらも、平静を装って答えた。


「そ、そうだね。魔法でお湯もいい感じに温かくなってるし、最高だよ。」


その後、リーナも続いて風呂に入った。

彼女は入浴を終えるとすぐに湯上がりの姿でリビングに戻ってきたが、彼女もまた、普段の冒険者としての元気な印象とは違う、リラックスした雰囲気を醸し出していた。


「うん、すごく気持ちよかった! コウタも早く入っておいでよ!」


リーナは笑顔で声をかけた。


コウタは2人の姿を見て、再びドキマギしてしまう自分を感じたが、何とか冷静を保とうと努めた。


「ありがとう。じゃあ、俺も入ってくるよ…」


浴室に向かう途中、彼はどうしても気持ちを落ち着けることができなかった。

2人が風呂から出てきたときの姿が、頭の中をぐるぐると回り、心臓の鼓動が早まっていくのを感じる。


「やばい…変なこと考えるな…落ち着け、俺…」


コウタは自分に言い聞かせながら浴室へと入った。

浴室はなんとも言えない良い香りが漂っていた。


風呂から上がった後、ようやく3人ともリラックスした時間を過ごすことができた。

浴槽の魔法で沸かした温かいお湯が体の疲れを癒し、3人はそれぞれの部屋へと向かう準備を始めた。


「ふぅ、今日は本当に疲れたわね。けど、お風呂に入ったおかげでだいぶ楽になった気がするわ。」


エレナが髪を乾かしながらリビングで言った。


「うん、全然違うね。広いお風呂があるなんて最高だよ!」


リーナもリラックスした表情で同意した。


コウタはその会話を聞きながら、2人が風呂上がりのリラックスした姿でいることに再びドキドキしてしまっていた。

普段の冒険者としての厳しさや強さとは異なり、女性としての柔らかさが際立って見えるのだ。


「これ、毎日続くのか…やばいな…」


コウタは内心、心を落ち着けようと努力していたが、頭の中には2人の姿が浮かんで離れなかった。


その夜、コウタは自分の部屋に入り、ベッドに横たわった。

しかし、どうしても眠ることができない。

頭の中には、リラックスしたエレナとリーナの姿がぐるぐると回っており、心臓の鼓動が速まるばかりだった。


「どうしよう…これじゃ眠れない…」


コウタは布団をかぶり、目を閉じてみたが、ドキドキが収まる気配はなかった。


リビングからは、2人が寝室に向かう音が聞こえてきた。

エレナとリーナは、もうすでに眠る準備ができているのだろう。

しかし、コウタは全くと言っていいほど眠る気になれなかった。


「こんな気持ちで毎日過ごせるのか…」


コウタは大きくため息をつき、何度も寝返りを打ちながら眠れぬ夜を過ごした。


結局その夜、コウタはほとんど眠ることができなかった。

翌朝、彼は重たい瞼を開け、ベッドからなんとか起き上がった。

寝不足のまま、リビングに向かうと、既にエレナとリーナは朝食の準備を始めていた。


「おはよう、コウタ。ちゃんと寝られた?」


エレナが振り返りながら声をかけてきた。


コウタは少し照れくさそうに答えた。


「あ、あぁ…なんとか…」


リーナも笑顔で手を振っている。


「コウタ、顔がちょっと疲れてるよ? もしかして、寝不足?」


「いや、ちょっと…いろいろ考えすぎて、眠れなかっただけだよ…」


コウタは苦笑いしながら答えたが、内心では2人の姿が頭から離れなかったことを思い出していた。


「今日は一日ゆっくりするつもりだし、無理しないで休んでね。」


エレナが優しく声をかけた。


コウタはその言葉にほっとしながらも、今後の共同生活がどんな風に進んでいくのか、少し不安な気持ちを抱えつつ、朝食のテーブルに座った。

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