それぞれの事情
コウタとエレナがリーナと共に食事を終える頃、リーナの表情は少し柔らかくなっていた。
空腹が満たされたこともあり、ようやく彼女の本音を語り始めた。
「ありがとう、助かったよ。でも、正直言うと…今日の夜、泊まる場所もないんだ。最近は街の外れの廃屋や路地で寝起きしてる。」
リーナの言葉に、コウタとエレナは驚いた。
彼女の冒険者としてのCランクという実力を考えれば、こんな状況に追い込まれていることが信じがたかった。
「外で寝てたの?」
エレナが心配そうに問いかけると、リーナは肩をすくめて答えた。
「まあ、今は冒険者として依頼を受けることもなくてね。生活が厳しいんだ。斥候として音や気配がわからないんじゃ、パーティに入ることなんてできない。だからお金もないし、宿に泊まる余裕なんてない。」
コウタは眉をひそめ、リーナの置かれた状況に同情した。
「でも、そんな状況でスリをするなんて…。君、ちゃんと冒険者としての実力はあるんだから、なんとかやり直す方法はあるんじゃないの?」
リーナは苦笑いを浮かべながら言った。
「Cランクだった時はそれなりに仕事があったけど、今はね…。耳が悪くなった後、パーティを組むのが怖くなっちゃったし誰もパーティに入れてくれないのよ。信頼していた仲間も失ったし。」
「でも…君が斥候として活躍していたことは本当なんだよね?僕たち、今度初心者講習を受ける予定なんだ。そこで基礎から学び直そうって思ってる。君もその講習を受けてみるってどうだい?」
コウタが提案すると、リーナは少し考え込んだ。
「初心者講習か…。実は、私も一時期、講師をしていたことがあるんだよ。Cランクだった頃に、何度か新人冒険者に教える役割を任されてね。でも、今の私にはそれを教える資格なんてないと思ってた。」
コウタは真剣な表情でリーナを見つめ、言葉を続けた。
「そんなことはないさ。君が斥候として培った経験は今でも活かせる。僕たちだって、冒険者としてはまだ初心者だし、君の助けが必要だ。だから…僕たちのパーティに正式に入って、一緒にやっていかないか?」
リーナは驚いてコウタの顔を見つめた。
「私が…君たちのパーティに?」
「そうだよ。僕たちも冒険者としては経験が少ないし、リーナの経験が役に立つはずだ。君の欠点も、何か克服する方法を一緒に探せると思うんだ。」
コウタは自信を持ってそう言った。
エレナも微笑みながら付け加えた。
「そうよ、リーナ。私たちと一緒にやっていけば、きっと良い方向に進めるわ。」
リーナは二人の言葉に感動し、しばらく黙って考えた後、ゆっくりと頷いた。
「…分かった。あんたたちがそこまで言うなら、もう一度やってみるよ。耳の問題も、どうにか克服できる方法があるなら試してみたい。」
「決まりだね!」
コウタは嬉しそうに笑顔を見せ、リーナに手を差し出した。
「これから、よろしくね。」
リーナは少し照れくさそうに笑いながら、コウタの手を握り返した。
「よろしく、コウタ、エレナ。」
こうして、リーナは正式にコウタとエレナのパーティに加わることになった。
しかし、まだまだ問題は山積みだった。
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