未知の成長

コウタは宿のベッドの上で突然目を覚ました。

全身に走る鋭い痛みで、彼は思わず体を丸めて呻き声を漏らす。

筋肉が引き裂かれるような感覚、骨が軋むような鈍痛が、体のあちこちから襲いかかってきた。

彼は息を整えようとするが、痛みは次から次へと押し寄せてくる。


「い、いったい、何が…?」


冷や汗が額から滴り落ちる。

手足は震え、立ち上がることすらできなかった。

まるで、体が自分のものではないかのように、どこか不自然な感覚が広がっていた。

激痛とともに、体内で何かが急速に変化しているのを感じたが、それが何なのかはわからない。

ただ、確実に「何か」が起きている。


夜中の静寂の中で、コウタはただその痛みを耐えるしかなかった。

時計を見る余裕すらなく、時間の感覚も失われていく。

やがて痛みは徐々に和らぎ始めたが、完全に消えることはなく、コウタはそのまま眠れぬ夜を過ごすことになる。




朝になり、コウタは疲れ果てた体を引きずりながら宿の食堂へ向かった。

全身の痛みは幾分か和らいでいたものの、まだ完全に治まったわけではなかった。

体が妙に重く感じ、動作が鈍っているような気がする。

それでも、エレナとの約束がある以上、顔を出さないわけにはいかなかった。


ギルドに入ると、そこにはエレナが既に座っていた。

しかし、彼女もまた疲労困憊の様子だった。

普段の明るい表情はなく、目元にはくっきりとしたクマができている。


「おはよう、コウタ。」

エレナがかすれた声で挨拶した。


コウタも同じように疲れた声で返した。


「おはよう…エレナ。君も…なんだか疲れてるみたいだね。」


エレナは苦笑し、頷いた。


「ええ、昨日の夜は全く眠れなかったの。全身が痛くて…まるで体が変わってしまったかのような感覚だったわ。」


コウタは驚きながらも、自分と同じことが起こっていたことに気づいた。


「僕もだよ。昨夜、全身が痛くてたまらなくて…何が起きてるんだろう?」


エレナはコウタの言葉に目を丸くしながら、自分の体に起きた変化について考え始めた。


「もしかして、あのスライム…私たちが倒したイエロースライムが原因なのかしら?」


コウタはその言葉に思い当たる節があった。

彼らが戦った硫化スライムは強力な存在だったが、倒した瞬間に自分たちが大きな力を得たとは考えていなかった。

しかし、体の痛みや違和感は、まるで急激な成長や変化を示しているように感じられる。


「でも、スライムを倒しただけで、こんなに体が変わるなんて…」


コウタは疑問を抱きながらも、自分の体が急速に成長していることを確信していた。


「確かに、イエロースライムはただの魔物じゃなかったのかも…。」


エレナは不安げに続けた。


「私は、あんな痛みを感じたのは初めてよ。でも、何かが確実に変わった気がするわ。自分がもっと強くなったみたいな…。」


「強くなった…か。」


コウタも同じように感じていたが、それが何を意味するのかまでは分かっていなかった。

ただ、冒険者としての経験が浅い彼にとって、魔物を倒して力を得るというのはゲームのような話で、現実的には理解できなかった。


「もしかしたら、僕たちはイエロースライムを倒したことで、何か特別な力を得たのかもしれない。でも、それが何なのか、どうすればいいのか分からないな…。」


エレナはしばらく考え込んだ後、提案した。


「ギルドに行ってみる?もしかしたら、他の冒険者たちや資料から何か分かるかもしれないわ。あのスライムのことも含めて。」


コウタはその提案に頷いた


「そうだね。ギルドで何か手がかりがあるかもしれない。」


二人は体の違和感を抱えながらも、ギルドへ向かうことにした。

彼らはまだ、自分たちがどれほどの力を手に入れたのか理解していなかった。



ギルドに到着した二人は、周囲の冒険者たちからの視線を感じながらも受付へと向かう。

エレナは少し気後れしながらも、コウタに向かって静かに話しかけた。


「コウタ、昨日のことだけど…君が転移者だって話してくれたこと、本当に感謝してるわ。私も…少しずつ自分のことを話せるようになるわね。でも、今はまだ…。」


「エレナ、無理しないで。僕も話すのに勇気がいったけど、君には君のタイミングがあるから。それまで待ってるよ。」


コウタは優しく微笑んで答えた。


エレナは少しほっとした表情を見せたが、その奥にはまだ悩みが隠れていることがコウタにも分かった。

しかし、今は彼女を急かす時ではないと理解し、二人はギルドの受付へと進んだ。




ギルドの受付で状況を説明し、倒したイエロースライムについて調べてもらうことにしたが、資料には何も具体的な記述がなかった。

スライムがどうしてあれほどの力を持っていたのか、また倒したことで何が起こるのかについての手がかりは見つからなかった。


しかし、二人はそれでも感じていた。

自分たちが手に入れた力、そしてそれがもたらす変化は、今後の冒険に大きな影響を与えるだろうという確信を。


「何も分からなくても、僕たちは強くなっている。」


コウタはそう言って自分を奮い立たせた。


「これからの冒険がどうなるか、もう少し自分たちの力を試してみるしかないな。」


エレナもその言葉に同意して頷いた。


「そうね。これから、もっと大きな試練が待っているかもしれない。でも、今なら私たちなら乗り越えられる気がするわ。」

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