決意と信頼の絆
朝の光がギルドに差し込む中、コウタはエレナと待ち合わせをしていた。
今日は魔法の森に向かう予定だったが、昨夜、コウタが転移者であることをエレナに打ち明けたことが心に引っかかっていた。
自分の秘密を明かしたことで、二人の関係が変わるのではないかという不安と同時に、正直に話して良かったという思いもあった。
コウタはギルドの掲示板を眺めながら、エレナに視線を送った。
彼女は静かに考え込んでいるようだった。
コウタは、昨夜のことについて改めて話し始めた。
「エレナ、昨日の夜、僕が転移者だって話した理由なんだけど…」
コウタは少し緊張しながら言葉を続けた。
「これから、僕たちが冒険を共にするなら、隠し事をしていたら誠実じゃないと思ったんだ。死を共にする可能性がある相手に、嘘をついたり秘密を持ったままでいるのは、良くないと思ったから。」
エレナはコウタの言葉をじっと聞き、静かに頷いた。
「そうね、私もそう思うわ。これから私たちが危険な場所に行くことを考えれば、お互いを信頼し合うことが一番大事よ。コウタが私に本当のことを話してくれて、嬉しい。これからは、お互いをもっと信じ合いましょう。」
「ありがとう、エレナ。」
コウタはほっとした表情を浮かべた。
「僕たちはこれから危険な場所に行くかもしれない。だからこそ、信頼が大切だよね。」
コウタの言葉を受けて、エレナの顔に一瞬だけ影が差した。
彼女はためらいながら、口を開いた。
「コウタ…実は、私にも隠し事があるの。」
コウタは驚きつつも、彼女の言葉を待った。
しかし、エレナはその後、少し黙ったまま目を伏せた。
やがて、ゆっくりと続ける。
「でも、それを今話すことはできない。ごめんなさい、コウタ。あなたが誠実に自分のことを話してくれたのに、私が今、あなたにその気持ちに応えられないのは本当に申し訳ないわ。」
コウタは少し驚いたが、無理に問い詰めることはしなかった。
「エレナ、いいんだよ。君が話せる時に話してくれれば、それでいい。無理に言う必要はないよ。」
エレナはほっとしたように微笑み、
「ありがとう、コウタ。いつか、ちゃんと話すわ…でも今はまだ、その時じゃないの。」
二人の間に一瞬の静寂が流れたが、その後、エレナはギルド内に目をやった。
「今日は魔法の森へ行くんだよね。」
コウタもその言葉に応じて、気持ちを切り替えようとした。
「うん、そのつもりだったけど…」
と、コウタは周りで話す冒険者たちの会話に耳を傾けた。
「なあ、最近聞いたか?魔法の森で待ち伏せしてる連中がいるって話。」
「悪名高いあの三人組だろ?若い冒険者から金や装備を奪ってるらしいし、特に女性を狙ってるって噂だぞ。」
コウタとエレナはその言葉を聞き、顔を見合わせた。
悪漢三人組の存在は既に知っていたが、再び彼らに遭遇する可能性があると聞いて、二人は一瞬ためらった。
「コウタ…やっぱり魔法の森に行くのは危険かもしれない…」
エレナは不安げに言った。
「確かに、あの三人組がいるなら、魔法の森は危険だね…」
コウタも同じ不安を感じたが、どうすべきかを決めかねていた。
その時、コウタの頭に「死の山」のことが浮かんだ。
あそこは確かに危険な場所だが、逆に誰も近づかない。
もし人がいないのなら、悪漢三人組に襲われる心配もないだろう。
「エレナ…どうだろう。死の山に行くのはどうかな?」
コウタは慎重に提案した。
「死の山?あそこは突然死するって言われてる場所よ…そんなところに行くのは危険すぎるわ。」
エレナは驚いてコウタを見つめた。
「確かに、あそこは危険だって言われている。でも、僕の推測では、その突然死は自然現象によるものかもしれないんだ。もしそれが魔物や魔力じゃなく、別の原因なら、対策を立てられるかもしれない。」
エレナは困惑した表情を浮かべた。
「どういうこと?突然死する原因が魔物じゃないって…何か根拠があるの?」
コウタは少し考え込んだ後、慎重に言葉を選んだ。
「例えば、僕が知ってる世界では、火山ガスみたいな自然現象で人が倒れることがある。無臭で無色のガスが原因で、一瞬で意識を失ってしまうことがあるんだ。もし、死の山で起きていることがそういう自然現象なら、対策は可能かもしれない。」
エレナはコウタの言葉をじっと聞いていたが、ためらいの表情を隠せなかった。
「それは…本当に安全だと言えるの?魔物が出てこないという保証はないわよ。それに、突然死なんて…」
「僕も確実なことは言えないけど…少なくとも、誰も近づかない場所なら、悪漢たちに襲われる心配はないと思うんだ。エレナ、僕たちでその謎を解いてみよう。もしかしたら、大きな発見になるかもしれない。」
エレナは深く息を吐き、やがて小さく頷いた。
「分かったわ、コウタ。あなたの言うことに賭けてみる。でも…もし本当に危険だと思ったら、すぐに戻りましょう。」
コウタはその言葉に感謝し、安心した表情で答えた。
「ありがとう、エレナ。僕たちなら、きっとこの謎を解けるよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます