告白

コウタとエレナはギルたちとの会話を終え、街の通りに出た。

日はすっかり沈み、街の灯りが静かに彼らを包んでいる。

ギルの助言はありがたかったが、コウタは自分たちで冒険を進めたいという気持ちを強く持っていた。

エレナもその決意を感じ取ったのか、特に反対することもなく頷いていた。


「さて、どうしようか?」


コウタは少し考え込みながらエレナに問いかけた。


「このまま宿に戻るのもいいけど、何か食べに行かない?」


エレナは一瞬戸惑ったが、すぐに微笑んで頷いた。


「いいわね。せっかくだから、ちょっと美味しいものでも食べましょうか。」


二人は静かな食事ができる店を探して歩き始めた。

しばらくすると、小さなレストランが目に入った。

木の看板に「月光亭」と書かれたその店は、こじんまりとしていて、落ち着いた雰囲気が漂っていた。


「ここでどう?」


コウタが提案すると、エレナは同意し、二人は店内へと足を踏み入れた。

店内は温かい照明で照らされ、客はまばらだった。

カウンター越しに見える料理人が静かに鍋をかき混ぜている。


二人は席に座り、メニューを眺めながら、少しの間無言が続いた。


だが、コウタの胸の中には、ずっと言えずにいた「真実」を話すべきかという葛藤が渦巻いていた。


「エレナ先生、少し話したいことがあるんだ。」


コウタは、勇気を振り絞って口を開いた。


エレナはコウタの真剣な表情に気づき、少し驚いた顔をしてから頷いた


「どうしたの?」


コウタは一度深呼吸をしてから話を続けた。


「エレナ先生に隠していたことがあるんだ。言うべきかずっと迷ってたけど…僕は、この世界の人間じゃないんだ。」


エレナはその言葉に目を見開いた。


「どういうこと?」


「僕は…この世界に転移してきたんだ。元々は、全く別の世界にいたんだよ。そこでは、魔術も魔物も存在しない代わりに、科学技術や機械が発達していたんだ。僕がここに来る前にいた世界の話をしても、理解しにくいかもしれないけど…」


エレナはしばらく沈黙したまま、コウタの話を真剣に聞いていた。

その表情からは、困惑と驚きが混じっているようだったが、やがて彼女は静かに息を吐いて言った。


「だから、時々あなたが言っていたことが、私には理解できなかったのね。科学とか、魔術とは違う何かの話をしていたけど…そういうことだったのね。」


コウタは少し安心しつつも、まだ緊張していた。


「うん、そうなんだ。だから、僕がこの世界の常識を知らないことがあっても、どうか変に思わないでほしい。ただ…ずっと言えなくてごめん。」


エレナは微笑んで首を振った。


「変だなんて思わないわ。むしろ、あなたがこの世界の人間じゃないことがわかって、少し納得した部分もある。あなたの知識や考え方が、この世界の常識に縛られていないからこそ、斬新で役に立つことが多かった。でも、そんな大事なことを打ち明けてくれてありがとう。」


コウタは、エレナが自分の話を受け入れてくれたことに安堵し、少し笑顔を見せた。


「本当にありがとう、エレナ先生。言えてよかった。」


「それにしても…転移者か。そんなことが実際にあるなんて驚きだわ。」


エレナは肩をすくめながら言った。


「でも、それならもっとあなたの知識を教えてもらいたい。私たちが魔術の研究に行き詰まっている部分を、あなたの視点で解決できるかもしれないわ。」


「もちろん、できる限り教えるよ。」


コウタは力強く頷いた。


「あ、それからもう一つ、お願いがあるんだ。」


「何かしら?」


「その…僕のこと、もう『先生』って呼ぶのはやめてくれないかな。」


コウタは少し照れ臭そうに言った。


「なんだか違和感があってさ。僕はまだまだ未熟だし、ただの冒険者だよ。」


エレナは驚き、そしてクスクスと笑いながら頷いた。


「わかったわ、コウタ。でも、あなたが教えてくれることはとても価値があるものだし、その知識は尊敬に値するのよ。」


「ありがとう。でも、普通に名前で呼んでくれると嬉しい。」


「コウタ、ね。わかったわ。私の事も『先生』って呼ぶのはやめてね」


エレナは微笑んで、そう答えた。


「わかった。エレナこれからもよろしく」


その後、二人は和やかに食事を進めながら、軽い冗談を交えつつ話を続けた。コ

ウタはエレナに、自分の世界での生活や技術、文化について少しずつ打ち明け、エレナはそれに興味深そうに耳を傾けた。

彼らの間には、以前よりも強い信頼と絆が生まれていた。


食事を終えて、店を出る頃には夜も深まっていた。

街の静けさが二人を包む中、コウタはエレナに「転移者」としての自分を打ち明けたことで、一つの大きな壁を乗り越えたような気がしていた。

エレナもまた、コウタに対する信頼をさらに深め、彼との冒険がこれからも続くことを楽しみにしているようだった。


「これから、もっと色んなことを一緒に経験していこうね。」


コウタはエレナにそう言いながら、前を歩いた。


「ええ、もちろん。私たちはまだ冒険の途中よ。」


エレナは頷いて、彼に歩調を合わせた。


その夜、二人は次の日に向けて静かに宿へと戻った。

翌日、ギルドの噂話が二人を新たな冒険へと導くことになるとは、まだこの時は知る由もなかった。

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