死の山と冒険の選択

コウタとエレナはギル達と一緒にギルドの広間に腰を落ち着けた。

昨日の襲撃からの緊張も、今は少し和らぎ、コウタはエレナと共にこれからの冒険について相談していた。


「さて、昨日の件で、あの悪漢どもをどうするかって話もあるが…今後、コウタたちも安全な場所で冒険を始めたほうがいいと思う。最初は無理せず、少しずつ経験を積んでいくことが大事だ」


とギルが真剣な表情で話を始める。


コウタは頷きながらも、頭の片隅には

「強くならなければならない」という思いが渦巻いていた。

自分を守り、エレナを守るためには、ただ学ぶだけでなく、実際に力をつけなければならない。


「そうだな、最初は無理せず、周辺のエリアで経験を積むのがいいだろう。東の魔法の森や、西の草原あたりは初心者向けの魔物が出るし、危険は少ない」


とギルが続けて提案する。


「でも、俺たちが気をつけなきゃいけないのは、北の方角…『死の山』だ。あそこは危険すぎる」


とロルフが少し眉をひそめながら、重々しく話し始めた。


「死の山?」


コウタが不思議そうに尋ねる。


ティナが説明を引き継いだ。


「そう、北にあるあの山は誰も近づかない。行方不明者や、原因不明の突然死が多発しているのよ。最初は何か強力な魔物の仕業だと思われていたけど、実際に討伐隊を派遣しても、特定の魔物は見つかっていないの。だから、皆『死の山』って呼んで、そこに行くのを避けてるのよ。」


「原因不明の突然死…?」


エレナが不安げに問い返す。


「そうなんだ。前触れもなく、人が倒れる。息をする間もなく死んでしまうことがあるって話だ。だから、ギルドでも死の山は『行ってはならない場所』として認識されている。初心者どころか、熟練の冒険者でも、あの山に近づくのは危険だ」


とロルフが補足する。


コウタはこの話を聞いて、どこか引っかかるものを感じていた。


「前触れもなく、人が死ぬ…。それって、何かの病気や魔力の暴走…いや、違うな…」


彼は頭の中で自分の科学的な知識を総動員して考え始めた。


「でも、死の山に何があるのか、まだ誰も解明していないのか?」


コウタが疑問を投げかける。


ギルが頷きながら答えた。


「そうだ、何度か探索隊を派遣したこともあるんだが、はっきりとした原因は見つかっていない。あの山の奥に何かがあるのかもしれないが、今のところは謎だ。魔物が原因だと考えられていたが、目立った痕跡はないんだ。」


ティナが続けた。


「そのうちの一つの可能性として、魔力が異常に高い場所だから、何かしらの魔法的な力が関与しているかもしれないって噂もあるけど、結局のところ、誰も近づきたくない場所だから詳しく調べられていないのが現状なの。」


コウタは何かが気になって仕方がなかった。

魔力や強力な魔物だけが原因とは思えない。

この世界では「魔法」や「魔物」が常識的な存在だが、コウタの頭の中には別の可能性が浮かんでいた。

それは、科学的な現象としての「ガス」の存在。

かつての世界で学んだ知識が蘇り、彼はひそかにこう考えていた。「もしかしたら、火山ガスの影響で…?」


しかし、その考えをまだ口に出すことはしなかった。

彼はもう少し情報が必要だと感じていた。


「コウタさん、エレナさん、初心者におすすめの場所としては、まずは『東の魔法の森』がいいんじゃないかと思います」


とティナが優しく提案する。


「魔法の森か…確かに、エレナも魔法を使うし、僕も魔法の知識を深めるには良さそうだね」


とコウタが答えると、エレナも微笑んで頷いた。


「そうね。私もまだ魔術について学ぶべきことがたくさんあるから、東の森は良い練習場になるわ」


とエレナも同意した。


ロルフが口を開いた。


「魔法の森は、魔力が豊富にあるけど、初心者でも対処できる魔物が多いんだ。そこから少しずつステップアップしていけば、戦いの経験も積めるし、危険を回避する術も学べる。」


ギルが最後に締めくくった。


「そうだな。まずは安全なところで力をつけてから、次のステップを考えよう。無理は禁物だし、悪漢たちから身を守るためにも、しっかり力をつける必要がある。」


コウタは頷きながら、自分の足りない部分を痛感していた。

エレナと自分を守るために、もっと力をつけなければならない。

彼はギル達の助言をしっかりと胸に刻みつけた。


「それじゃあ、まずは魔法の森での冒険から始めよう」


とコウタが言うと、エレナもその言葉に同意した。


「よろしくお願いします」


とエレナが頭を下げると、ギル達は笑顔で頷き返した。


こうして、コウタとエレナは最初の安全な冒険を目指し、準備を進めることになった。

しかし、コウタの頭の片隅には、まだ解けない「死の山」の謎が引っかかっていた。


コウタは、ギル達の提案に感謝しながらも、二人でまずは魔法の森での冒険を進めることを決意していた。

ギル達にばかり頼るわけにはいかないし、彼らも彼らで自分たちの仕事や冒険がある。

いつまでもついて来てもらうわけにはいかないと、コウタは遠慮したのだ。


「ギルさんたち、色々とありがとう。でも、僕たちも自分の力で頑張りたい。最初の冒険くらいは自分たちでやってみます」


とコウタはやんわりと伝えた。

ギルは頷いて笑顔で答えた。


「そうか。お前たちがそう言うなら、無理に付き合わなくてもいい。何かあったらすぐにギルドに戻るんだぞ。油断しないことが大事だ。」


エレナも小さく微笑んで、


「本当にありがとうございました、ギルさん。私たちでやってみます」


と言った。

ギル達は応援の言葉をかけてくれたが、やはり実際に行動するのはコウタとエレナだけだ。

彼らは自分たちだけで、力をつけていかなければならない。

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