初めての宿泊と異世界の暮らし
幸太は、ギルドから紹介された宿に辿り着いた。
街の外れにある比較的治安の良い宿で、「銀の木」という名が掲げられている。
木造の古びた建物だが、外観は手入れされており、そこまで悪くは見えなかった。
だが、異世界での初めての宿泊に、不安が募る。
「ここか……思ったより普通だな。異世界の宿ってもっとファンタジーっぽいものを想像してたけど……」
ギルは「銀の木」について、「値段の割には安全で、何より飯がうまい」と保証してくれていた。
宿代は銀貨1枚と銅貨2枚、ギルが貸してくれたお金でまかなえる範囲だったので、幸太はひとまず安心した。
「お金があるってありがたいな……ギル、本当にありがとう」
宿に入ると、笑顔の女将が迎えてくれた。
彼女は年配で、優しい顔立ちをしている。
「いらっしゃい。お部屋は2階にご用意してます。食事は夕飯がすぐに出ますから、部屋で休んでからでも大丈夫よ」
「ありがとうございます。すぐに部屋に行って休ませてもらいます」
案内された部屋は木造のシンプルな造り。
木の床とベッド、そして小さな机と椅子が一つ。
窓からは街の通りが見え、昼間の賑わいがかすかに聞こえていた。
衛生面に多少の不安を感じたものの、そこまで酷いものではなかった。
「うん、まあ許容範囲かな……清潔とは言い難いけど、酷いわけでもないし」
食事の準備ができたという知らせを受け、幸太は1階の食堂へ向かった。
テーブルには異世界らしい豪快な食事が並べられていた。
肉のステーキ、パン、スープ、そして山盛りの野菜。それにしても、量が多すぎる。
「す、すごい量だな……一人分なのか、これ?」
幸太は、自分が背は高いがひょろっとした体型であることを思い出しながら、こんなに食べられるのか不安になった。
大学時代はコンビニ弁当やインスタントラーメンで済ませることが多かったので、食事の量には慣れていない。
「まあ、でもここで食べとかないと……体力もつけなきゃな」
一口食べると、肉は驚くほどジューシーで、スープも優しい味わいだ。
思わず何度も口に運び、気づけばほとんどを平らげてしまっていた。
「意外と食えるもんだな……でも、この量はやっぱり多すぎる」
お腹が一杯になり、ようやく一息ついた幸太は、自分の体を見下ろした。
背は高いが、筋肉はほとんどなく、ひょろひょろのオタク体型。
大学ではずっとデスクに向かい、研究やゲームに明け暮れていたので、運動らしい運動はしていなかった。
髪も乱れており、ボサボサで整えていない。
「こんな体じゃ、冒険者なんて夢のまた夢だな……体力つけないと」
疲れがどっと押し寄せ、幸太は部屋に戻るとベッドに横たわった。
今日は異世界に来てから目まぐるしい一日だった。
ゴブリンとの遭遇、ギルたちとの出会い、ギルドでの登録と依頼の受託。
すべてが一気に押し寄せてきた。
「今日は疲れたな……」
そのまま意識が遠のき、深い眠りに落ちていった。
翌朝、幸太は早朝に目を覚ました。
ぐっすり眠れたおかげで疲れは取れていたが、体のあちこちが少し痛んでいる。
異世界での暮らしに体がまだ慣れていないのだろう。
朝食が用意されたと聞いて食堂に降りると、またもや大量の食事が並べられていた。パン、スープ、卵、さらに肉までついている。
「朝からこんなに食べられるかな……」
結局、あまりの量に食べきれず、残してしまったが、それでも満足感は十分だった。
「こんなに食べてたら、そのうち太るんじゃないか?」
ひょろひょろの自分が太る姿を想像し、思わず苦笑した。
体型のことも気にしてはいたが、今は何よりもこの世界で生き抜くことが最優先だ。
「今日は商家の家庭教師の仕事か……何とか頑張らないとな」
幸太は異世界での新たな一日を迎える準備を整え、ギルドで受けた依頼に向けて再び動き出すことにした。
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