冒険者ギルドでの試練と新たな一歩

幸太はギルたちとともに、冒険者ギルドに到着した。

巨大な木製の扉を押し開けると、そこには賑やかで混沌とした光景が広がっていた。武装した冒険者たちが酒を飲み交わし、各自が戦利品や依頼内容を確認し合っている。

幸太はその圧倒的な熱気に少し圧倒されながら、受付に並ぶ。


「ここが冒険者ギルドか……現実感がないな」


と呟く幸太。


「慣れればなんてことないさ」


とギルが肩を叩いた。


「おい、新人。まずは登録だな」


と、受付にいた精悍な女性が幸太に声をかけた。

彼女の名札には「レナ」と書かれている。


「冒険者として登録したいんですけど、何が必要なんですか?」

幸太が尋ねる。


「まず、冒険者ギルドの基本的なルールから説明するわ。ギルドは依頼を受けて、それを遂行することで報酬を得る場所よ。討伐、護衛、採集、探索など、いろんな依頼があるわ。冒険者たちはランクで区分されていて、EランクからSランクまで。新人は必ずEランクからスタートするわね。依頼をこなすことでランクが上がっていくけど、無茶をすれば命を落とす危険もある。だから、まずは基礎をしっかり学ぶことが重要よ」


幸太は真剣な表情で話を聞く。

ギルも横で頷いていた。


「なるほど、Eランクからスタートか……。初めから上手くいくなんて思ってないけど、やっぱり慎重にいかないとダメだな」


「そういうことね。そして、冒険者登録には初期費用として銀貨2枚が必要よ。それから、初心者には『初期講習』というのを受けることを強く勧めているの。講習では、戦闘の基礎や依頼の進め方、この世界で生き抜くための常識を教えるわ」


「講習ですか……戦闘とか、まだ自信ないですけど、受けたほうがいいですよね?」


幸太はギルの方を見た。


「絶対に受けたほうがいい。俺たちも昔受けたが、基礎を学ぶのは何より大事だ。無知なまま戦場に出て死ぬやつを何人も見てきた。お前もその講習を受けてから次に進め」


ギルの真剣な眼差しを見て、幸太は深く頷いた。


「そうします。講習受けます」


「それでいいわ。それにしても、講習の費用も必要だし、生活費だってかかるでしょう。金は持ってるの?」


「いや、それが……全然持ってなくて……」


幸太は困った顔をしてギルを見た。


「金の心配か。気にすんな、俺が貸してやるよ。当座の生活費と登録費、それに講習代も全部出してやる」


「え!? そんなにいいんですか? 必ず返します!」


驚いた幸太は慌ててお礼を言った。


「気にすんな。お前が稼げるようになったら、それで返せばいいんだ。俺にとっては少額だし、俺も新人の頃は随分と周囲に助けられたのさ。それに、一緒に働いてくれるなら俺たちも助かるからな」


ギルはさらりとした口調で言ったが、その言葉には大きな恩義を感じた。幸太は再度感謝の気持ちを示しつつ、ギルの厚意を受け取った。




「ところで、お金の価値も理解しておいたほうがいいな」


と、ギルは話を続けた。


「この世界の通貨は基本的に銅貨、銀貨、金貨の3種類だ。銅貨が最も安い単位で、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚になる。普通の冒険者なら、銀貨1枚で一日分の宿代と食事をまかなえるって感じだな。まともな宿に一泊するなら銀貨1枚、簡単な食事なら銅貨3枚くらいかかる。お前もこの金額感覚にはすぐに慣れるだろう」


「銀貨1枚が宿代1日分か……なるほど、思ったよりも生活費は高くなさそうですね」


「商人や労働者は一日働いて銀貨1枚を稼ぐのが普通だ。冒険者はリスクがあるが、成功すればその分報酬も大きい。うまくやればすぐに稼げるさ」


幸太は、異世界の通貨の仕組みと物価に関する基本的な知識を理解し始めた。大学での生活とは大きく異なるが、経済の基本はどこも同じだと感じた。




「さて、登録が完了したら、すぐに仕事を探したほうがいいだろう。依頼には色々な種類があるけど、お前は戦闘にはまだ向いてなさそうだな」


とギルが提案した。


「そうですね、まだ戦う自信はないです……」


と、幸太は答える。


「なら、戦闘以外の仕事を探すのがいいわ。ギルドには街でできる簡単な仕事もたくさんあるの。例えば、商家での計算や書類整理なんて依頼もあるわよ」


受付のレナが提案した。


「計算? それなら僕でもできそうです! 具体的にはどんな仕事なんですか?」


「依頼主は街の商家で、家庭教師の仕事よ。商家の主人が、子供に算術を教えてほしいって依頼してるの。君がもし数字や計算に強いなら、ぴったりの仕事だと思うけど、どう?」


「算術の家庭教師か……それなら自分にできるかもしれません。昔から数学とか、そういうのは得意だったんで!」


「いいわね。じゃあ、まず簡単なテストを受けてもらって、合格すればその依頼を受けられるわ」




しばらくして、幸太はギルドの一室で用意されたテストを受けた。

問題は基礎的な算術、いわゆる掛け算や割り算、簡単な方程式といった内容だが、幸太にとっては簡単すぎた。


彼は大学で学んできた知識を思い出しながら、素早く問題を解いていった。

数分も経たないうちに、すべての問題を終わらせてしまった。


「終わりました!」


「早いわね……それにしても、答えも全部正解か……」


ギルドのスタッフが驚きの声を上げた。


「計算が得意って聞いてたけど、これほどとは……」


幸太は少し気まずそうに笑った。


「まあ、数字には強い方なんで……」


「実は、このレベルで計算が出来る人材は、既に貴族に抱えられていたり、国の機関に勤めていたりで、依頼を受けられそうな人物がいなかったのよ助かったわ。この商家の依頼は君にぴったりね。報酬は銀貨3枚ほどになるわ。これで、宿代や食費も数日分は賄えるはずよ」


「本当にありがとうございます! これで何とかやっていけそうです」


「お前、得意なことは計算だけか?」


ギルが興味深げに聞いてきた。


「そうですね……計算とか数字が得意です。でも、それ以外はまだあまり自信がなくて……」


「それでも十分だ。お前が得意なことを生かせば、この世界でもやっていけるさ。無理に戦士になる必要はない」


ギルの言葉は、幸太にとって大きな励ましだった。

自分の得意分分野を活かせば、この異世界でも生き延びる道があるかもしれないと感じた瞬間だった。

そして、幸太は商家の依頼を引き受けることを決め、新しい一歩を踏み出す準備を整えた。


幸太は、ギルドでの登録を終え、改めてギルたちに感謝の気持ちを伝えるため、冒険者たちと一緒に待機所に戻った。


「ギル、ティナ、ロルフ、本当にありがとう。君たちのおかげで、この街に来ることができたよ」と幸太は深く頭を下げた。


「気にしないで、幸太! 俺たちも君が無事でよかったと思ってるよ」とギルが優しく微笑む。


「本当に! これからが大変だと思うけど、無理しないでね。私たちも応援してるから」


とティナも明るい声で言った。


ロルフはニヤリと笑い、

「この街には色々と危険もあるけど、君ならきっとやっていけるさ」


と励ましの言葉をかけた。


「ありがとう、みんな。もし何かあったら、また頼りにしてもいいかな?」


と幸太は少し不安になりながら尋ねた。


「もちろん! 何かあったらすぐに知らせてくれ。いつでも助けに行くからさ」


とギルが頼もしく言った。


幸太は、彼らとの別れが名残惜しくてたまらなかったが、冒険者たちとの一時の別れを受け入れた。


「また会えるよね? その時は、少しは強くなっていると思うから」


と幸太は期待を込めて言った。


「絶対に会おう! 君が成長する姿を見るのが楽しみだよ」


とティナが笑顔で応えた。


別れを惜しむ中、幸太は宿の場所を探すため、ギルドの職員に尋ねた。しばらくして、無事に「銀の木」という宿の名前を教えてもらった。少し割高ではあるが、安全で食事も美味しい宿だという。


「宿は、あまり安くないけど、治安も良くて食事も豊富だから安心して過ごせるよ」


と職員が教えてくれた。


「それなら、ぜひ行ってみたいです」


と幸太は即答した。


「あと、あなたのその格好かなり目立つわよ」


職員の指摘に幸太は自らの服装を見下ろす。


「宿の近くに古着屋があるから購入をおすすめするわ」


「ありがとうございます」


お礼を言って幸太はギルドを出た。


道を歩くうちに、街の雰囲気が徐々に変わっていくのを感じた。

賑やかな市場の音や、冒険者たちの笑い声が響き渡っている。

異世界とはいえ、活気に満ちたこの世界が少しずつ受け入れられているようだった。


「これからどうなるのか、不安だけど、前に進むしかない。少しずつ、この世界での生活に慣れていけるはずだ」


と自分に言い聞かせながら、幸太は古着屋で一般的な服を何着か買うと、「銀の木」へと足を進めた。


こうして、彼の新しい一日が始まろうとしていた。

再会を約束したギルたちとの時間が、彼の心を少し軽くしていた。

これからも、異世界での生活を続けていくために、自分自身を鍛え、成長していくことを決意したのだった。

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