街の門
夕日が西の空を赤く染める頃、幸太たちはついにフェルデンの街の入口へとたどり着いた。
城壁に囲まれたその街は、冒険者たちの言う通り、大規模な都市ではないが、そこそこ発展している雰囲気があった。
「ここがフェルデンだ。まぁ、田舎町って感じだが、君にとっては大都市みたいに見えるかもな」
とギルが笑顔で言う。
しかし、幸太はそんな彼の軽口を返す余裕もなく、ただ無言で城門を見つめていた。
ここに来るまで、自分がどんな場所にいるのかはっきりとわからなかったが、いざ目の前に街の姿が現れると、否応なく現実味を帯びてくる。
「…本当に、異世界か…」
幸太は内心でつぶやく。
この門をくぐれば、もう後戻りはできない気がした。
「さて、行くぞ」
とギルが先に進み、ティナとロルフもその後に続いた。
幸太も慌てて彼らの後を追う。
しかし、門の前に立つ門番が彼らを止めた。
二人の門番は鎧を着込み、槍を手にしていた。
表情は険しく、厳格そのものだ。
「止まれ。入城するには身分証明書を見せろ」
と一人の門番が言った。
幸太は一瞬、体が凍りついた。
もちろん身分証明書など持っているはずもない。
金も、今のところ一文も持ち合わせていないことに気づき、焦りが募る。
「あ、えっと…その…」
と幸太が言い淀んでいると、ティナがすかさず前に出た。
「大丈夫だ。私たちが保証する。彼は私たちの仲間で、山奥でずっと暮らしていたから、身分証明書を持っていないんだ。祖父が亡くなったんで街に出てきたんだよ」
と、まるで事前に打ち合わせをしていたかのように、幸太の作り話をさらりと補完する。
「保証だと? 証明書も持たない者を簡単に通すわけにはいかん。規則は規則だ」
と門番は渋い顔をしながら答えたが、ギルが間に入った。
「こいつを信じろ、俺たちは『リンドヴルム』だぞ。Bランク冒険者の俺たちが保証すれば問題ないだろ? 彼が危険人物なら、俺たちが責任を取るさ」
「…『リンドヴルム』だと?」
門番はギルの言葉を聞いて、一瞬戸惑ったようだった。
「確かに、お前たちの噂は聞いているが…本当に彼の保証をするつもりか?」
「もちろんだとも。彼は無害だ。俺たちがしっかりと見てるから、心配いらないよ」
ギルの自信に満ちた態度に門番もついに折れたらしく、ため息をつきながら槍を引いた。
「…わかった。今回だけは通すが、次は身分証を作ることを忘れるなよ」
「もちろん、ありがとうよ」
とギルは軽く手を振って、門番に礼を言った。
幸太はそのやり取りを見て、冷や汗が止まらなかった。
彼一人ではどうしようもない状況だったが、ギルたちのおかげで何とか街に入ることができた。
「よかったな、これで無事に入れた。さぁ、行こう。冒険者ギルドに案内してやる」
とギルは笑いながら歩き出した。
フェルデンの街に足を踏み入れた幸太は、すぐにその混沌とした雰囲気に圧倒された。
道端には露天が並び、人々が賑やかに商品を売り買いしている。
馬車が行き交い、商人や冒険者、さらには装備を身に着けた衛兵までが忙しなく動き回っている。
街並み自体は古風だが、活気に満ちており、そこには自分がいた現代の日本とはまったく異なる世界が広がっていた。
「ここが街…か。すごい、これが異世界の都市なんだ…」
周囲を見渡しながら、幸太は言葉を失っていた。
異世界転生モノのアニメや小説でしか見たことのない光景が、現実に自分の目の前に広がっているという事実に、彼は戸惑いと同時に興奮を感じた。
「まぁ、感動してるのはわかるが、まずはギルドに行こうぜ」
とティナが笑いながら言った。
「ええ、そうですね…」
幸太は彼女に促され、再び歩き始めた。
数分歩いて到着した場所は、一際大きな建物だった。
木造の二階建てで、玄関には大きな看板が掲げられている。
そこには「冒険者ギルド」と書かれていた。
「ここが冒険者ギルドだ。まずはここで登録しておけば、街での生活も多少は楽になるはずだ」
とギルが説明する。
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