冒険者たちとの出会い

「ふぅ…ここまで来れば、少しは安心か」


剣士の男が一息つきながら、草原を見渡した。

先ほどのゴブリンの襲撃から何とか脱出した幸太は、冒険者たちの護衛を受けながら歩き続けていた。


「ま、これで君も無事に街までたどり着けるだろう」


と剣士は微笑む。


「ありがとうございます。本当に助かりました…」


幸太は礼を言いながら、まだこの状況に混乱していた。

ここはどこなのか、彼らは何者なのか、知りたいことは山ほどあったが、まずは自分の状況をしっかり把握しないといけない。


「ところで、君はどうしてあんな場所で一人でいたんだ? しかも、あんな軽装で?」と弓を持った女性が不思議そうに尋ねる。


「えっと…実は、ずっと山奥の洞窟で祖父と二人で暮らしていたんです。あんまり外には出たことがなくて、街のことも全然知らなくて…それで、祖父が亡くなったんで、どうしようか迷ってたんですけど、ついに街に出ようと決めて…」


自分が異世界転移したなんて、さすがにそのまま話せるはずがない。

幸太はとっさに、以前に見たファンタジー小説の設定を思い出し、作り話を組み立てた。


「そうか…じゃあ、外の世界のことはあまり知らないんだな」


剣士は納得したように頷き、幸太に対して特に疑いを持つ様子はなかった。

幸太はほっとしつつも、さらに質問を投げかけられるのを覚悟していた。


「祖父に頼りきりで…正直、街に出るのは初めてで、何もわからないんです。常識もあんまりなくて…」


「なるほどな。でも、それならなおさら一人で行動するのは危険だぞ。今の君みたいに、ゴブリンやら何やらに襲われたら、すぐに命を落としかねないからな」


と剣士は忠告した。


「本当に、運が良かったな。私たちが偶然通りかからなかったら、今頃どうなっていたか…」


弓の女性も続けた。


「はい…気をつけます」


「それにしても、山奥で暮らしてたって言う割には、見かけが都会的というか、変わった恰好だな」


弓の女性が、幸太のTシャツとハーフパンツを指さしながら言った。


「ああ、これ? 祖父が亡くなる前にくれたんです。あんまり綺麗じゃないけど、着やすいんで…」


幸太は苦笑いしながら、またも即席の言い訳をひねり出した。


「ふーん。まぁ、確かに軽装だけど、何か魔法的な特別な装備かもな。見たことないデザインだし」


弓の女性は興味深そうに幸太の服を見ながらも、それ以上は追及しなかった。


その間に、杖を持ったローブ姿の男が何やら呪文を口ずさみ、風を感じるような微かな魔力の痕跡を感じさせた。

何をしているのかはわからないが、冒険者としての役割がそれぞれ異なることはすぐに理解できた。


「そうだな。ところで、君の名前は?」


と剣士が尋ねる。


「水瀬幸太です…でも、みんなからは『コウタ』って呼ばれてました」


「コウタか。俺はギル。こっちがティナ、弓の使い手だ。そんで、こっちはロルフ。彼は魔法使いだ」


と、剣士――ギルが仲間を紹介した。


「はじめまして、コウタ。まぁ、気楽にいこう」


とティナが手を振り、親しげに笑った。


「…ロルフだ。よろしく」


と、ロルフは短く言ってからまた黙り込んだ。


「君は初めて会ったが、俺たちは『リンドヴルム』ってパーティー名で活動している。冒険者ランクは『B』だ。まぁ、悪くはないだろ?」


「Bランクって…その、どういう基準で決まるんですか?」と、幸太は興味津々で尋ねた。冒険者としてのランクシステムは、幸太の知識にはなかった。


「ランクは、冒険者ギルドが決めるんだ。依頼をこなしたり、試験を受けたりして実力を証明していけば、ランクが上がる。Sランクが最強で、次にAランク、その下にBランクって感じだな。俺たちはまぁ、そこそこの実力ってところだ」とギルが説明した。


「なるほど…ギルドって、どんなところなんですか?」


「ギルドは、冒険者に依頼を仲介してくれる場所だ。モンスターの討伐、物資の護衛、探索依頼なんかが主な仕事だな。君が街に行くなら、まずはギルドで登録してみるといい。冒険者として働けば生活費も稼げるし、仲間もできる」


と、ギルは続けた。


「それにしても、コウタ。君が本当に祖父と二人きりで暮らしていたなんて、信じられないな。普通、山奥の洞窟なんて危険だろ? モンスターも出るし、食料だって自分で確保しないと…」


ティナが疑問を投げかけてきたが、幸太はどうにか平静を保ちながら返事をする。


「祖父がすべてやってくれてたんです。僕はあまり外に出ることもなくて…ほんとに何もできないんです。祖父が亡くなってから、やっと自分で何かしないとって思ったんですけど…やっぱり一人じゃ何もできなくて」


「なるほど…大変だったんだな。だが、街に来れば少しは楽になるはずだ。助け合いの文化があるし、ギルドで仕事を見つければ、食っていけるぞ」


と、ギルは励ますように言った。


「街って、どんなところなんですか?」


と幸太は尋ねた。

自分が今いる世界のことを少しでも理解しなければならない。


「俺たちが今向かっているのは、フェルデンっていう小さな街だ。大きくはないが、商業も発達しているし、ギルドもそこそこ充実している。街の中心には大きな広場があって、定期的に市も開かれているんだ。初心者冒険者にも親切な場所だぜ」


「フェルデンか…」幸太はその名前を心に刻みつけるように繰り返した。


「街に着いたら、まずは宿を探せよ。俺たちも一緒に泊まっている『月影の宿』ってところがあるから、そこで会えるかもしれないし、何か困ったら声をかけてくれ」とギルが優しく言った。


「ありがとうございます。本当に助かります…」


こうして、幸太は冒険者たちと世間話をしながら、フェルデンの街へと歩き続けた。

彼らの会話は和やかで、時折笑いも交じり、幸太も少しずつ気を楽にしていた。

異世界での生活がこれからどうなるのか、まだ何もわからないが、少なくとも今は彼らがいてくれる。そのことが、彼に少しの安心を与えていた。


そして、夕方にはついに街の外れにたどり着く。


「ここだ、フェルデンの街だ」


ギルが指さした先には、木造の城壁に囲まれた街の入口が見えていた。

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