第79話

「ところで、カツラさん? とは、その猫のことですか?」





 景色に目を奪われている私の足元にいる大きな白猫を見て笑う。





「そうです! 頭の模様が……ほら!」





 腰をかがめて大きな白猫を抱き上げてレイトさんに猫の顔を見せて話す。





「この子、体は真っ白なのに頭のところに七三分けみたいな模様があるんです」



「本当だ。フフッ、これがカツラに見えるからですね」





 レイトさんはくすくすと笑いながらカツラさんの頭を撫でようと手を伸ばすが、カツラさんはするりと私の腕から飛び出してしまった。



 綺麗に着地するとまた私の足元に擦り寄って喉を鳴らす。





「嫌われちゃいましたね……」



「私も触らせてもらうのに随分時間かかったんです。その後も急に姿を見せなくなっちゃったり……カツラさんと会えるのって凄くラッキーなんですよ!」





 ドヤ顔で説明する私に、レイトさんは吹き出した。しばらく笑い「すみません」と息を整えた。





「なんだか、似てますね」





 レイトさんは腰をかがめて私の足下にいるカツラさんに話しかけた。



 似ているとは私とカツラさんのことだよね?

 私の髪型が変とか――

 そわつきながら自分の髪を手で撫でつける。





「あっ、違います。行動の方ですよ。近づけたかと思うと急に走り出して離れていってしまう……」



「そうだ! ごめんなさい!」





 一人は危ないからと再三言われ、送ってもらっている最中なのに周りも見ずに走り出す。野良猫となんら変わらない自分の行動が恥ずかしい。





「はっきりと犯人が分かるまで……少しの間ですから気をつけて下さい」





 寂しそうに笑うレイトさんは、もしかしたら私が犯人かもと疑っているのを分かっているかもしれない。



 自己嫌悪で胸が痛んだが、それすらも自分勝手な痛みで嫌になる。



 どんどん落ちていく気持ちを悟られないように、私はリュックからお礼の鰹節を出して、手の平に乗せた。





「カツラさん、どうぞ」





 私も腰を下ろしてカツラさんに鰹節をあげながら、レイトさんの顔を見る。





「レイトさん……ごめんなさい」





 今はただ私には謝ることしか出来ない。

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