第75話
でもなんで私が正体を知っていると分かったのだろう。
「お友達と来た時に、レイコさんにRAINではないかと尋ねられたんです。だから確信はなかったんですが」
きっと顔に出ていただろう私の疑問をレイトさんが答えてくれる。それに納得した私は手を握り合ったままの状態をやっと認識する。
「わっ! ごめんなさい」
慌てて手を離すと、レイトさんも恥ずかしそうに「すみません」と自分の手を背に隠した。
「あの、たとえあなたが僕をRAINだと知らなくても、話を聞いて欲しいと言っていたと思います」
「なぜですか?」
レイトさんは少し困ったように考えている。
絵を描くことを辞めてしまった人が、目前で自分のことをモデルに絵を描いている私を、どんな気持ちでみていたのだろう?
私だったら、自分が描けない時に意気揚々に夢を語り絵を描いている人を目前にしたら嫉妬する。
憎いとさえ思うかもしれない。
黒い気持ちが湧き上がるのを止めるように、レイトさんが話し始めた。
「あの猫の絵を好きだと言ってくれたからです」
カウンターの側に飾ってある猫の絵を指差した。もしかしなくとも、RAINの作品なのだと分かった。
「純粋に絵を見て好きだと言ってくれた。僕に懐かしい気持ちを思い出させてくれたんです」
そう言って照れたように笑うレイトさんに嘘はないんだと思う。それとは反対に真実を聞いて私の気持ちは揺らいでいる。
私の中にはもやもやとした黒いものが立ち込め始めていた。
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