名声の影
第73話
ロジーを描くためファルツさんの家に通う日々が続く。
絵を描く時間の半分はマリアの相手になる。ファルツさんはそんな様子を見て、ゆっくりと描けばいいと笑ってくれた。
あのパーティーからオーナーの売り込みが功をそうし、僕の絵も名前も知られるようになった。
だが名声の影には嫌な噂がついてまわる。
小児性愛者。妾。
どれも耳を塞ぎたくなるものばかり。オーナーとファルツさんは気にすることはないと言ってくれたが、周りの状況は悪くなる一報だった。
絵を買うからと僕自身を買おうとする人まで現れる。
そんな時、ふと思ったんだ。僕の絵は本当に評価されているのだろうか?
ただ僕自身を面白可笑しく祭り上げ、絵など誰も見ていないんじゃないかと急に怖くなった。
疑心暗鬼になった僕は全てから逃げ出した。良くしてくれたオーナーやファルツさん。
絵を楽しみしてくれていたマリアのことも裏切ったんだ。
部屋に閉じこもり壊れていく僕を見かねた祖父が、日本に一度戻ったほうが良いと判断して促されるまま日本に帰国した。
閉じこもっていた数日間の記憶は酷く曖昧で、日本についてからも何もしない抜け殻のような日々が続く。
祖父はそんな僕を怒るわけでもなく、体を動かせと喫茶店ダ・ヴィンチの手伝いをさせた。
僕が一通りの仕事を覚えると祖父は僕に喫茶店を任せて一人で旅に出てしまった――
「RAINは未だに裏切ったまま日本にいるんです。すみません、退屈な話を聞かせて」
おそらく彼女は僕がRAINなのを知っている。失望しているだろうと彼女の顔を見ると泣いていた。
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