第63話

悲しそうでもあり、怒っているようなひどく不安定な瞳。



 やっぱり聞くのはまずかったかも。




「レイトさん。やっぱり、いいです!」



「いえ、楽しい話じゃないですけど聞いてもらえませんか?」




 力なく笑うレイトさんに私は、スケッチブックと鉛筆を置いて「はい」と答えた。



 レイトさんはカウンターに入り紅茶を淹れなおしに行った。




「どうぞ」




 カウンターに置かれた紅茶に誘われるように椅子から立ち上がり移動した。



 私が席に座ると、レイトさんも自分のカップを持って私の隣に座った。



 淹れてもらった紅茶を一口飲んでレイトさんを盗み見る。

 レイトさんカップを持ったまま遠い目をして固まっていた。緊張しているんだろうか?



 聞いてくれとは言われたけど――



 こんな状態のレイトさんを見ると、ますます私なんかが聞いていいのかと思ってしまう。





「すみません。RAINについて少し思い出していたんです」




 

 不安な顔をしていた私を気遣うように、いつもとは違うぎこちない笑顔を見せる。



 あくまでも自分がRAINだとは言わない。自分だと認めるのも辛い話なんだろうか?



 私は黙ったままレイトさんが話し出すのを待った。



 レイトさんはやっと自分のカップを口に付け、一口飲むとぽつりぽつりと話し始めた。

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