第62話

冷めた紅茶を飲みほして、穏やかな空気になった所で早速デッサンを始めることにした。



 向かいあって座り、スケッチブックと鉛筆を握ると段々と冷静になってくる。



 怒りの感情を見たせいか昨日とは違って笑顔の中に荒々しい雰囲気のレイトさんが描かれていく。



 レイトさんの心の一面。少しずつしか開けないのがもどかしい。





「今日の僕は随分と怖いですね」



「えっと……ごめんなさい」





 休憩を取ると私のスケッチブックをレイトさんが覗き込んで笑う。



 良くも悪くも自分やモデルの感情が絵に出すぎてしまう。



 それにペースを上げなければ、夏休みはおろかコンクールにも間に合わないだろう。



 私はストレッチをするレイトさんをじっと見て思いきって聞いた。





「レイトさんはRAINって画家を知っていますか?」





 不躾で今度こそ怒って帰れと言われるかもしれない。けれど、レイトさんをもっと知るには聞かなきゃいけない気がする。



 レイトさんは動きを止めて私の目をじっと見つめ返す。

 そして怒ることなく、ふっと笑った。




「知っていますよ。逃げ出した臆病者の画家」

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