第61話

「何があったのか、描き始める前に詳しく聞かせてくださいね?」




 レイトさんの声が、いつもの優しい声音ではなくて怒気を含んでいる気がするのは気のせいだろうか?



 勝手にやって来て不審者だと疑いをかけられ、あげくに帰り道を送ってもらうとか厚かましいにもほどがある。



 ――怒って当然だよね



 私は恐々「はい」と力なく振り返った。



 カウンター席に座る。

 淹れてもらった熱々の紅茶を冷ましながらレイトさんの帰った後のことを話した。





「なぜ、すぐに僕に連絡しなかったんですか? すぐに戻れば犯人を捕まえられたかもしれないのに」





 怒気を含んだ声に私の肩が上がった。レイコもそうだけど、顔が整っている人の怒った顔って迫力あるんだよね。





「すみません声を荒げて……でも、なにかあったら頼ってください。それとも、僕では信用できませんか?」



「信用してます! ただ、迷惑かと思うし……危ないじゃないですか」





 ぼそぼそと言い訳じみたことを話す私に、レイトさんはふっと柔らかい笑顔を見せて私の頭を優しく撫でた。





「僕も男ですから、可愛い女の子くらい守れますよ」





 私は全身から蒸気が出るんじゃないかってくらい熱くなっていくのが分かった。



 私の赤い顔を見てレイトさんも少し恥ずかしかったのか「ちょっとキザですね」と笑った。



 歯が浮くようなセリフもレイトさんが言えば自然だ。

 私はしばらくにやけた顔を隠すのに必死だった。

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