第58話

「ナオヤ待ってよ!」





 どんどん先を歩いて行くナオヤを呼ぶ。少しだけ歩がゆっくりになったが止まる気はないらしい。





「なんだよ、早く歩け」





 機嫌が悪いとすぐにこれだ。周りを遮断してしまう。まだ話すだけマシかもしれない。





「コンビニに寄りたいの!」





 ナオヤは何も答えないが、聞こえてはいるようで一応コンビニにがある方向に歩いて行く。



 私は溜息を付いてナオヤの後を付いていった。



 道を一本入った場所にあるコンビニに着くと、私は急いで中に入って目当ての物を買った。



 鰹節とアイスを二本。これで機嫌なおるかな?





「おまたせ」





 外で待っていたナオヤに袋からアイスを一本渡す。





「気が利くな。サンキュー」





 少し笑顔になったナオヤ。人のこと言えないくらい単純。 機嫌がなおったなら、まあ良しとしよう。



 また道を戻り、二人並んでアイスを食べながら喫茶店に向かって歩き出す。





「それ、レイコに殴られたんでしょ? 痛い?」





 ナオヤのほんのりとまだ赤い頬をチラリと見て尋ねると、心底嫌そうな顔を見せる。





「痛いに決まってんだろ! あのメスゴリラ!」





 私の頬を抓りながらレイコが聞いたらもう二、三発は殴られそうな暴言を吐いた。



 私は頬を抓るナオヤの手を振り払う。





「痛いな……ナオヤがいつもレイコに殴られるようなこと言うから」



「はぁ? ちょっと冗談言っただけで、顔殴るか? だいたい、可愛げってもんがないんだよレイコは!」





 苦苦しい表情でアイスに齧り付いた。





「そうかな? レイコは可愛いよ。私から見たら完璧な女性だと思う。男だったら彼女にしたいくらい」



「ふんっ! こんなに良い男を前にして彼氏にしたいと思わないような目の腐った女はゴメンだね」

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