第56話
アトリエの外に出るれば、陽が少し傾いていたが暑さはまだ残っていた。
「今大丈夫かな? お店忙しくないかな……」
携帯の画面にレイトさんの携帯電話を表示する。通話ボタンを押す前に気持ちを落ち着かせた。
深呼吸をして通話ボタンを押す。
プルル、プルル――
何度目かの呼び出し音の後、レイトさんの声が聞こえた。
『もしもし』
「あの今、大丈夫ですか? その、今日もモデルしてもらえますか?」
緊張して名乗ることも忘れ、しどろもどろに一気に要件を話してしまう。
ギュッと目を瞑ってレイトさんの声に耳を澄ます。
『あっ、はい! 大丈夫ですよ。お待ちしてます』
心なしかレイトさんの声が上擦って聞こえた。
「今日もよろしくお願します!」
『フフッ、電話って緊張しますね。気を付けて来てくださいね』
「えっと、はい。それじゃ後で……」
終了のボタンを押すとホッと息がもれた。
電話でも直接会っても私は緊張するよ。
今日こそは何か作品に繋がるようなデッサンが描けるといいな。
伸びをしてアトリエの中に浮きだった気持ちで入ると、ナオヤが頬を抑え、その前にレイコが仁王立ちしている姿が目に飛び込んできた。
察するにナオヤがレイコに殴られたよね。
「えっと二人共、喧嘩はよくないよ?」
「「してない!!」」
息ぴったりに同時に返事をする。二人って本当によく似てる。
二人とも意地っ張りだから、うまくいきそうでいかない。 ナオヤはレイコのことどう思ってるのかな?
帰り道にでも聞いてみようかな。
「今日も、モデル大丈夫だって言ってたから喫茶店まで送ってもらっていいかな?」
少し時間が経てば仲直りするのは分かっていても、流石にこの状況のまま一人で帰ることは出来ない。
「それなら行くぞ」
ナオヤはそう言ってポールハンガーに掛けてあった私の麦わら帽子を被ってアトリエから出て行った。
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