第55話

ナオヤは今、私と話していたことをレイコに話す。

 レイコは青い顔をして私を見つめていた。



 ことのほか、自分が深刻な状態なのかもしれないと実感が湧いてきて不安になっが、当事者そっちのけで対策を話し合う二人を頼もしくも思った。



 レイコは念には念をと、またたび荘を管理している不動産屋にも連絡を入れた。



 事故物件なのを隠していないか、またたび荘の住人にトラブルがある人物はいないかなどを事細かに聞いていた。



 どうやら不動産屋はレイコのお祖父さんの知り合いだったらしく、親切丁寧に答えてくれた。



 やっぱりというか、またたび荘にはまったく問題なし。

 結果、夕方には護衛がつくことになった。





「いいよ! 一人で大丈夫だよ!」



「ダメ! こんなのでも、隣にいれば違うから」



「もう少し言い方ってもんがあるだろう……」





 なるべく一人で行動しないほうがいいと、ナオヤが送ってくれることになった。



 レイコも泊まりに来てくれると言ってくれたり、これ以上二人に迷惑かけたくないから断った。けれどナオヤが送ることだけは譲ってくれない。





「とにかく、男と一緒に歩いているのを目にすれば、彼氏と勘違いして諦めるかもしれないじゃない」



「そりゃ無理だろ。手を繋いでも兄妹で精一杯。道端でキスでもするか?」



「なっ、何言ってんの! 嫌だよ!」





 ふざけて言っているのが分かっていても顔が熱くなる。

 隣にいたレイコは冷たい目でナオヤを睨む。





「そんな破廉恥なことしたら殺すわよ」





 本気だ――――



 殺気を感じて私とナオヤは息を飲む。ナオヤは前にレイコが習っている護身術を試してやると、ふざけて後ろから抱きついたことがあった。



 言うまでもなく返り討ち。顔を腫らしていたのを私も覚えている。



 ナオヤは顔をヒクつかせて「冗談だよ……」と必死に訴えて後ずさる。





「あっ! 今日はレイトさんに来る前に連絡して欲しいって言われてたんだ! ちょっと電話してくるね」



「ずるいぞ!」





 殺伐とした雰囲気から逃げるために携帯電話を持ってアトリエから外に飛び出した。



 ナオヤ頑張れ! 心の中でエールを送りつつレイコを怒らせるのだけはやめておこうと思った。

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