第54話

私の方をチラリと見ながらナオヤが言う。まだ疑っているナオヤに文句を言おうと口を開こうとすると、レイコが割ってはいる。





「ごめんね。私もそれは少し考えた。でも理由がない。それに、こんなに素敵な絵が描ける人がそんなことするとは私も思えないわ」





 パソコンの画面には何枚もの絵が並んでいた。RAINの作品集と書かれている。




「これって、レイトさんの作品?」




 淡い色彩で優しさだけでなく力強さも感じられる。動物や人の内面が色に表現されている。



 すごい――



 隣で笑顔を見せるレイコ。きっと色々調べてくれたんだ。



 いつもお洒落に気を使っているレイコが眼鏡を掛けて眠そうな目。不謹慎にも嬉しかった。



 画面を見ているナオヤは頭を掻いて大きな溜息をついた。





「作品からは、悪いことをするような奴に感じない。けど、奴の一面に過ぎないだろう?」



「そうね。ナオヤの風景画を見て、描いた人見ると吃驚するものね」





 レイコは腕を組んで頷きながらナオヤに皮肉を言う。

 食い入るようにRAINの作品を見ている私にレイコがそっと話す。





「レイトさんのことを疑えとは言わないわ。ただ、私もナオヤも心配なの」





 二人の顔を見ると言われなくても心配してくれてるのが分かった。



 私は「わかった」と返事をすると下を向いた。



 痛いほどわかる。二人に心配もかけたくない。レイトさんも疑いたくない。





「もっと色々、警戒しろってことだよ」





 私のモヤモヤとした気持ちをナオヤは見透かし、頭から追い出すように頭を軽く叩かれた。





「お化けじゃないなら、いったい何なんだろう?」



「そうよね。誰かに恨まれるようなこともないものね」





 三人で顔を見合わせる。考えても行動範囲はアトリエと家にちょっとした買い出し。



 新しいことといえば喫茶店に行くようなったくらいで人付き合いもレイトさんが増えただけだ。





「あっ! 公園……」



「公園で恨みを買うようなことがあったの?」



「猫。公園の猫にモデル料の鰹節持って行ってない」



「化け猫の仕業って言いたいのか?」





 レイコとナオヤは呆れた目をして溜息をついた。



 ふざけてる訳じゃないけど、それぐらいしか思いあたらないのだから仕方ない。

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