第45話
「動いていても大丈夫なら、少し話しませんか?」
「はい、もちろん大丈夫です」
首を大きく縦に振って答える。レイトさんも「良かった」と微笑んだ。
私のほうがいつも気を使ってもらうばかりだな。
私は気を取り直し、鉛筆を握りモデルのレイトさんを見る。レイトさんが疲れる前に早いとこ描かないとね。
「あの、僕をモデルにするの彼は随分と嫌がったんじゃないですか?」
眉尻を下げて申し訳なさそうに話す。
彼ってナオヤのことだよね。確かにレイコも一緒に反対はしてたけど、モデルを頼んだのは私だ。
レイトさんが気に病むことなんて一つもない。
私は鉛筆を休ませることなくレイトさんに答える。
「兄と言うか、親みたいで何かと煩いんです」
「大切に思ってるんですね。いい彼氏さんですね」
彼氏? ナオヤが?
大切と言うよりは大概、面白がってる気がする。
「あの、ナオヤは彼氏じゃないですよ。友達です」
「そうなんですか? てっきり仲が良いので、お付き合いされているのかと思いました」
レイトさんは恥ずかしそうに鼻の頭を指で掻いている。
はじめて言われた。
三人でいるとナオヤとレイコが恋人で、私は決まってナオヤの弟か妹に間違えられる。
服装を変えた効果? そうだったら嬉しいな。
「ナオヤとレイコは親友です。ナオヤは風景画、レイコは静物画が得意なんです。二人共、凄くいい絵を描くんですよ」
「人を笑顔にさせる素敵な作品なのが伝わります。僕も見てみたいな」
レイトさんは手を口元にあててクスクスと笑っていた。
そんなに顔に出ていたのかと、急に恥ずかしくなってスケッチブックに視線を戻し鉛筆を走らせる。
緊張がお互い解れてきて、レイトさんの表情もだいぶ柔らかくなってきた。
けれど、まだ中身は見えない。少しだけ分かるのは、笑顔だけど本物って感じがしない。
海外で評価を得ていたのになぜ失踪してしまったのか。 もう絵は描かない、描きたくなくなってしまったのか。
一緒にいると欲張りになって知りたいことが山のように募っていく。だけど、不用意に踏み込めない。
私の作品が出来上がるまでには、もっとレイトさんのことわかるといいな。
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