第44話

食器を洗う音が聞こえる。

 その音が止まるとテーブルを拭いてまわり、手際よく片付けを済ませる。





「お待たせしました。始めますか?」



「はい。お願いします」





 緊張しながらスケッチブックをテーブルの上に置き頭を下げる。





「ポーズはどうしますか?」




 ポーズなんて考えてなかった。いつも動物相手で、ポーズをお願いすることなんてない。無理だもんね。



 取り敢えず椅子に座ってもらうでいいかな。





「それじゃ、楽な姿勢で椅子に座ってもらえますか?」



「それなら、場所もカウンターのほうがいいですね」





 確かにテーブルを挟んだソファーでは全身が見えない。



 私は残ったレモネードを一気に飲み干してカウンターに移動する。



 カウンターの椅子を移動させて座ってもらう。

 私もカウンターの椅子を少し移動させて描く場所を決めた。



 スケッチブックをめくり、膝を台にして鉛筆を握った。

 レイトさんの方を見ると目が合った。





「モデルなんて初めてです……緊張しますね」



「私も、きちんと人をモデルに描くのは初めてなんです。動物なんかはすぐに居なくなっちゃたりするんでその……疲れたら言って下さい」




 緊張を解そうと思っても、自分がレイトさん以上に緊張していて上手く話せない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る