第40話

自分の世界に入っていた私をレイトさんの声が引き戻す。





「お口に合いましたか?」





 水の入ったグラスを置きながら私たちの顔を見回す。






「美味しかったわ。ご馳走様」





 レイコが言うとレイトさんは嬉しそうに笑う。



 私もなんか嬉しくなって笑っていると、呆れたと言わんばかりの表情をしたナオヤが私を睨んでいた。



 ナオヤは息を吐くと真面目な顔をしてレイトさんを見た。





「なあ、あんた。何で報酬もないよく知りもしない相手のモデルなんか引き受けたんだ?」





 ナオヤは打っ付けに聞く。確かになんの報酬もないのに不思議だよね――





「「あっ」」





 私とレイトさんは声を揃えた。私の声に三人の視線が注がれる。



 私が声を上げた理由が分かっていそうなナオヤとレイコは苦笑いをしていた。




 報酬――




 浮かれていたせいで頭から抜けていた。

 普通に考えても報酬を払うのは当然だよね。



 レイトさんは私の様子を見て可笑しそうに笑う。





「僕も報酬を貰うことなんて忘れてました」





 バッチリばれている。私はばつが悪くて俯いた。



 ナオヤは呆れたように大きな溜息を付いた。





「それじゃ、モデルを引き受けたのは変な下心か?」





 とんでもないことを聞くナオヤに吃驚して私は顔を上げた。



 ナオヤに笑顔はない。私の隣に座るレイコを見ても探るようにレイトさんの答えを待っていた。





「そうですね、彼女のデッサンを見たからかもしれません。どんな作品を作り出すのか興味があるから。これでは答えになってませんか?」





 穏やかに話すレイトさんに毒気を抜かれたようにナオヤとレイコは笑顔を見せた。





「誰かさんと同じようなこと言ってるし、大丈夫そうね」





 レイコが私を見て笑う。ナオヤも「あぁ」とだけ返事をして残りのアイスコーヒーを飲み干す。

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