第39話

「あのタッチどこかで見た気がするのよね」



「マスターさんのお祖父さんが猫もゆっくり出来る喫茶店になりますようにって飾ったみたいだよ」





 レイトさんと話した内容を教えると、レイコはなにか思い出したように目を見開いた。





「RAIN……そうよ、レイン!」





 雨? レイコ一人だけが答えを見つけてスッキリした顔をしていたが、私とナオヤは眉を寄せる。





「なんだよそれ?」





 ナオヤは不機嫌そうにレイコに聞いた。私も早く答えを聞きたくてレイコの顔を見た。





「私のおじいさまと海外のギャラリーに行ったとき見たのよ。新進気鋭の画家RAIN。丁度、本人が居て挨拶したのよね。あの容姿に描く作品もいい。凄く注目されていたのに急に消えたのよ」



「消えた? 消息不明ってことか?」





 レイコはアイスコーヒーを飲んでから深く頷いた。

 私は驚きに言葉がでなかった。





「なにがあったのか知らないけど、まさか日本の喫茶店でマスターをやってるなんてね」



「いよいよ怪しくなってきたな。モデルしてもらう話、断ったほうがいいんじゃないか?」





 黒猫の絵を見ながら話を聞いていた私はナオヤにそう言われ我に変える。



 レイトさんは画家だった。





「断らない。あんなに、素敵な絵を描く人が変な人の訳ない。画家なら絵を教えて欲しいくらいだよ」





 はっきりとナオヤに答える。ナオヤは少し驚いていたが、レイコは肩をすくめて笑った。





「何言っても駄目ね。いつもぼんやりしてるけど、こうと決めたら揺るがないもの」



「そうは言ってもな……」



「男を見る目はなくても、絵を見る目は確かじゃない?」





 私は黒猫の絵を見てから、奥で座って読書しているレイトさんを見た。



 他にはどんな作品があるんだろう。見てみたい。

 ますます興味が湧いてくる。



 それは素敵な絵を描く画家だと知ったから?

 ただ純粋にアメミヤ レイトを知りたいからなのか?



 ごちゃごちゃ考えても仕方ない。



 仲良くなって絵の話をしてみたい。レイトさんをモデルに描いてみて、新しい何かを見つけて作品にする。



 やっと少しだけど、気持ちが整理できたみたい。

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