第38話

こそこそと話していると、トレーにケーキと飲み物。クッキーの入った籠を載せてテーブルに戻って来た。





「お待たせしました」





 声をかけながらテーブルに並べていく。

 最後にいつもの猫型クッキーが入った籠をテーブルの真ん中に置いた。





「あら? 頼んでないわよ」



「サービスです。そうは言ってもまだ、試作品ですからお口に合うかわかりませんが」





 そう言ってはにかむレイトさんをレイコとナオヤはじっと見ている。





「そうなの? 可愛い女の子にはサービスがつくのかしら?」





 は、はじまった。

 レイトさんの表情を見ると驚いて目を丸くしている。





「レ、レイコ……」





 止めようと小声で呼ぶが、気づかない振りをしている。

 どうしようかとレイトさんの方を見ると目が合ってしまう。



 私の動揺する姿に何か感じ取ったのか口元に笑を浮かべた。





「そうですね。常連さんと美味しく食べてくれそうな優しいお客様にだけ出しているんです」



「常連以外は結局のところ、あなたの趣味じゃない?」



「そうですね。お客様は優しそうなので」





 嫌な顔一つ見せずにレイトさんはニッコリと微笑んで「ごゆっくり」と言ってカウンター奥に戻っていく。





「結構やるじゃない」





 レイコは去っていくレイトさんを見ながらアイスコーヒーを飲んだ。



 私も落ち着く為にレモネードを一口。美味しい。



 怒ってないかな? これで終わりだといいけど。

 口を開かなかったナオヤのを見ると、ケーキに舌鼓を打っていた。





「コーヒーとケーキかなり美味い」



「クッキーも美味しいよ」





 三人同時に籠へ手を伸ばした。一口食べるなり「美味しい」と声が出た。



 このまま、和やかにお茶をして帰りたい。



 この地獄のような審査で善人だと判断されたその後、私はどんな顔してレイトさんに会えばいいんだろうか。



 絶対に気まずいよね。






「本当に名前通り、ダ・ヴィンチばっかりだな」



「そうね。雰囲気は嫌いじゃないけど……あら? あの絵だけダ・ヴィンチじゃないのね」





 カウンター近くに飾られた黒猫の絵をレイコは食い入るように見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る