第35話
昼食はレイコの家でご馳走になり、喫茶店には16時近くに行くことに決めた。
その時間なら閉店間近で人もいないだろうし、レイトさんに迷惑がかからないと思ったからだ。
アトリエに戻ってレイコが広げた服をたたみ直して紙袋に戻していると、私のスケッチブックをナオヤが見ていた。
「ちょっと! 見ないでよ!」
「なあ、今更だけど人なんか描けるの?」
ナオヤの言葉にギクリとして思わず、スケッチブックを取り上げる手が止まった。
「描けるわよ。ただ私も正直、吃驚したけどね」
私の代わりに、レイコが答えた。
咄嗟に頼んでしまったモデル。動物ばかり描いている私が、人間を描くことを不安に思っていることを二人が気づかないはずないんだ。
「自分でも吃驚してて、作品になるのか分からない」
俯いたまま呟くように言うと、最後の服をたたみ終えたレイコが立ち上がった。
「なんだって、はじめは不安よ」
「そりゃそうだ。まずは、モデルが安全か確かめないとな」
ナオヤは見ていたスケッチブックを閉じて俯いたままの私の頭を叩く。
スケッチブックとをそのまま受け取り、顔を上げると二人が笑っていた。
「そろそろ喫茶店に行くわよ! ナオヤこれ持って」
レイコは服がぎっしりと入った大きな紙袋を指して言った。
かなり重そうだけど大丈夫かな。
「マジかよ……」
紙袋を肩に掛けたナオヤはけっこうな重量に驚いた様子だった。
レイコは自分のバックを肩に掛け「行くわよ」と歩き出す。
私も慌てて荷物を持って後を追う。
「お茶おごれよ」
ナオヤの横を通り過ぎる時に溜息を付きながら言われる。
私は苦笑いを浮かべて「ごめん」と呟いた。
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