第30話
「あの公園に、おしゃれなカラスがいるんですよ。足にアクセサリー付けてるんです」
「僕もあの公園は買い物に行く時、通るんだけど会ったことないな。今度探してみるよ」
取り留めのない話をしながら並んで歩く。
私の住む、またたび荘が見えてくる頃には随分と普通に会話が出来る様になっていた。
「あっ、ここで大丈夫です」
私はまたたび荘に視線を移しながら言った。
マスターさんも視線の先にあるまたたび荘を見て察する。
立ち止まると、マスターさんはズボンのポケットから何かを取り出した。
私に差し出されたのは、喫茶店ダ・ヴィンチのロゴが入ったコースター。
「これ、僕の連絡先です。モデルの話いつからでも構いませんから」
裏返すと電話番号と名前が書いてあった。
「本当にいいんですか? 迷惑なら……」
あの派手な女性に、喫茶店を閉めた後も忙しいと話していたのを思い出していた。
「どうしても都合がつかない時は断りしますし、そんなに気にしないで大丈夫ですよ」
マスターさんは優しく笑うと街灯のせいなのか分からないが、顔が少し赤くなった気がした。
私は「ありがとうございます」とお礼を言ってマスターさんを見送った。
電話番号と名前の書かれたコースターを見る。
『アメミヤ レイト』
初めて知った名前。顔がにやけるのを我慢しながらコースターを握りしめ、またたび荘の方向に振り返る。
振り返りざま、電柱に人影が見えた気がしたが、気にも止めずドアの鍵を開けて部屋に入った。
部屋の電気を点けてもう一度コースターを見る。
「レイトさん」
声に出して名前を読んでみた。なんか恥ずかしい。
今日は、眠れないかも。
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