第28話

そのまま沈黙が続き、私は必死に話題を探す。

 なにか話さないと間がもたない。



 そして、脳をフル回転させてやっと口からでた言葉は自分でも予想外だった。





「モデルになってください」



「「えっ!?」」





 自分でも驚いて、マスターさんと声が重なる。

 慌てて口をおさえる。





「僕がですか?」





 一人であたふたする私にマスターさんは驚いたような表情で尋ねる。



 唐突すぎるし、人は描かないって話したばかりだ。

 絶対変に思われてるよ。




 なんて答えよう―― 





「いっ、今コンクールに出す作品で悩んでいて……いつも動物なんで、違うものを描いてみたいっていうか……」





 苦しい。苦しすぎる。

 マスターさんの顔を見ると、顎に手を当てて考えている。





「そうですか。それなら、店が終わった後になってしまいますが、大丈夫ですか?」



「えっ!? モデルになってくれるんですか?」





 意外すぎる返答に驚く。苦し紛れに言ったことにまさかモデルを引き受けてくれるなんて。



 これはこれで、嬉しいけど描ける?

 途端に不安でいっぱいになる。





「常連さんは十六時を過ぎたら来ないし、その後片付けをして……」





 腕を組んで時間の計算をするマスターさん。

 今更、やっぱり辞めますとは言えない。



 それに、いつもと違った物を描いたら何か道が見えるかもしれない。



 そう決心を固めていると、店の照明が点いた。

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