第26話

「まだ、天気も荒れてますし休んでいって下さい。いま飲み物入れますから」



「大丈夫です! えっと……」





 窓を見れば、雨が打ち付けて雷がゴロゴロとまだ鳴っている。さすがに、帰れない。



 挙動不審になっているだろう私にマスターさんは「座っていてください」と告げて飲み物をトレー乗せていた。




 仕方なく荷物下ろしてカウンターの席に座った。




 ゆらゆらと沢山灯ったロウソクの火を見ると、不思議と少しずつ気持ちが落ち着いてきた。





「どうぞ。あと、こちらも忘れ物です」





 アイスティーとクッキーが入った籠を並べた最後に封筒を渡される。



 ほかに忘れたものはないはずだけど。首を傾げて封筒を受け取って中を確かめると小銭が入っていた。





「お釣りです。戻ってこなかったらどうしようかと思いました」





 一つ席を空けてマスターさんも座って自分のグラスを口に運んだ。



 まったくお釣りの事など頭に無かった。いいのかな? またアイスティー飲んでるけど。





「先程はゆっくりして頂けなかった……嫌な思いをさせてしまいました。このアイスティー美味しいって常連のお客さんに評判なんですよ。飲んでいって下さい」




 なんか読まれたかもしれない。このまま素直に貰っとこう。マスターさんの悲しそうな笑顔。



 こっちまで悲しくなってくる。さっき嫌な思いをしたのはマスターさんだ。



 私はなるべく平静を装って笑顔でアイスティーを飲んだ。





「絵を描かれるんですか?」



「はい。油絵で動物ばかり描いています」





 静かな店内は二人の会話と止まない雨と雷の音が響く。

 マスターさんは目を細めてロウソクの火を見ていた。





「人は描かないんですか?」



「描けなくはないんですけど、動物と違って中身が見えないっていうか……」





 言葉で表現するのが難しくて眉根を寄せる私にマスターさんは頷いた。

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