第25話

「大丈夫ですか? 近くに雷が落ちたみたいですね。この辺一帯、停電しているようです」





 火の灯ったアルコールランプがカウンターに置かれると、足下を柔らかい光が照らす。



 ゆっくりとカウンターに近づく。マスターさんは棚の中を漁って木の箱を取り出した。





「これにも火を入れましょう。だいぶ明るくなりますよ」



「あの、スケッチブック……」





 箱から色々なロウソクを出してカウンターに並べた。


 

 その一つを取ってアルコールランプから火をつけると次々と火を灯していく。




 魔法みたい――




 とても幻想的で声をかけられなくなる。



 黙って最後の火が灯るまで見ていた。

 マスターさんが最後のロウソクに火を灯すと、私を見て困ったような顔をした。





「先に謝ります。すみません。スケッチブックの中を少し見てしまいました」





 瞬時に嫌な汗が背中を流れた。

 少しってどこまで見たの? 自分の似顔絵見ちゃった?



 それに、そんな顔で先に謝られたら怒れないし謝りたいのは私のほうだ。



 勝手に似顔絵描いて嫌な気分にさせたかもしれない。





「あっあの、見ました?」





 ギュッと目を瞑って絞り出すように聞くとマスターさんの近づいて来る足音が後ろから聞こえる。





「動物のスケッチを見ました。とてもよく描けてますね」





 私はゆっくりと目を開いた。



 声の方向を見ると、カウンターから出てきたマスターさんがスケッチブックを差し出して笑顔で立っていた。



 動物のスケッチしか見てない? 確かにスケッチブックには動物しか描かれていない。




 ただ一つの例外を除いて――




 もしもマスターさんが自分の似顔絵を見つけていたらと思うと怖くて確かめられなかった。





「ありがとうございます」





 お礼だけ言ってスケッチブックを受け取り胸にギュッと抱きしめた。

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