第23話

大きな池があって水鳥や野良猫がいるのんびりした公園。

 いつもスケッチをするお決まりの木陰に座り込む。




 変だと思われたよね。




 噂のことは気になるけど、答えを聞きたくなかった。

 友達になるなら、マスターさんが男性を好きでも関係なんてないのにな。





「あーあぁ」





 頭を抱えて、そのまま芝生の上に寝転がった。茂みがゴソゴソと動いて猫が顔を覗かせた。





「ごめんね。煩かった?」



「にゃ~ごぉ」





 よくスケッチのモデルをしてくれる野良猫。猫を見てポケットの中のクッキーを思い出した。



 体を起こしてポケットを探る。慌てていたせいで、少し割れてしまっていた。





「これ、食べる? 凄く美味しいよ」





 割れたクッキーを自分も食べながら、残りを猫の前に置いた。くんくんと匂いを嗅いでから、パクリと口に入れた。



 穏やかにその様子を見ていると、茂みから猫がゾロゾロ出て来る。子猫も混じっていた。





「今日はもうないんだよ。ごめんね」





 モデルのお礼に煮干やら食べ物をあげていたら、すっかり懐かれてしまった。




 猫って可愛いな。癒される。




 気持ちを落ち着かせるのに子猫がじゃれている様子をスケッチしようとスケッチブックを取ろうと手を伸ばす。





「あれ?」





 無い――



 両手を付いたまま血の気が引く。

 喫茶店ダ・ヴィンチに忘れて来たんだ。



 そのまま腰が抜けたように座った。



 逃げるように出てきた場所に、また戻るのはかなり勇気がいる。




 まだ、あの女性はいるだろうか?




 座ったまま動かない私の膝に、いつの間にか猫が喉を鳴らして乗っていた。猫の背を撫でながら溜息をつく。





「あっ!!」





 声を上げた私に猫がビクリと体を震わせた。煩いと言わんばかりに私の膝に乗ったまま猫が睨む。




 スケッチブックにはマスターさんの似顔絵が描いてある。




 中を見られたら――




 迷っている場合ではない。一刻も早く取りに行かなきゃ。

 今戻れば、まだ忘れ物に気づいてないかもしれない。





「ごめんね。今度は煮干持ってくるからね」





 膝から猫を下ろして、周りにいる猫にも謝ると荷物を持って喫茶店に向かって走り出した。

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