第21話

マスターさんは「すみません」と会釈すると声の方へ行ってしまった。



 また先ほどの女性の姿が見えると怖い顔で私を睨んでいた。




 どうやら、呼びつけたのも彼女のようだ。




 マスターさんが女性に近づくと、既に私を睨んでいた様子は微塵もなくなり、甘えたようにマスターさんに話し始める。





「夜は空いてるでしょ? 花火ぐらい付き合ってくれてもいいじゃない?」



「お客様、申し訳ありませんが閉店後も明日の準備がありますので」





 聞くつもりはなくても会話が耳に届く。

 これって、あの女性がマスターさんを誘ってるんだよね?




 だから、私のこと睨んでいたんだ。




 だけど、気のせいかマスターさん困ってるみたいだど――



 ミントですっきりとした喉越しのアイスティーを飲みながらどうしても二人を見てしまう。





「それじゃ、いつなら空いてるのよ! 連絡も全然してこないし」





 女性が焦れたようにマスターさんに怒鳴る。私以外のお客も恐らく女性を見ているだろう。




 店内の空気が少し張り詰めた。





「他にもお客様がいらっしゃいますから、お静かに願います」





 まったく態度の変わらないマスターさんに女性は納得いかない様子でいる。



 いつの間にか女性を凝視していた私に気がついて、恐ろしい顔で睨まれた。




 怖い。




 女性は私を見たままニタリと嫌な笑を浮かべた。





「ねえ、あなたの噂ってやっぱり本当なの?」

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