第19話

アトリエに戻るとナオヤは中二階で自分のキャンバスに向かっていた。



 エプロンを付けて真剣な顔で筆を走らせている。





「ナオヤ先に帰るね!」





 声を掛けると筆を置いて階段を下りてきた。





「おっ、なんか雰囲気がす違うな」



「どう? 可愛いでしょ?」





 後ろからレイコが肩を掴んでナオヤに自慢するように私を見せる。



 流石に、まじまじと見つめられると恥ずかしい。





「馬子にも衣装」





 熱くなった顔が冷めていった。

 もう少し褒めてくれてもいいのに――



 笑っているナオヤの腕をレイコが勢いよく叩いた。





「あんたね! 少しは言い方ってものがあるでしょ? 素直に可愛いって言いなさいよ」



「痛ってえな。正直に言ったまでだ」





 なんだか折角、可愛くしてくれたレイコに申し訳ない気がする。



 虫取り少年には見えなくなったみたいだから、良しとしなきゃかな?



 苦笑いしながらリュックを背負って麦わら帽子をかぶると、レイコが「あっ!」っと声を上げた。





「帽子はダメよ!」





 頭から麦わら帽子を取るとレイコはすぐに私の髪を整える。そうだ、セットしてもらったんだった。



 ごめんと謝り舌をだすとナオヤが声を上げて笑い、レイコが持っていた麦わら帽子を取り上げた。



 私の背中でなにかゴソゴソやっている。二人に挟まれて身動き取れない。





「「出来た!」」





 二人が同時に声を上げる。髪もどうにか直ったみたい。後ろで何をしていたのか確かめると、リュックに麦わら帽子が付けられていた。





「二人共ありがとう」





 笑顔を向ければ、二人はやれやれといった表情で送り出してくれる。



 兄姉というとより両親?



 私は二人に手を振って軽い足取りでアトリエを後にした。

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