第5話
残りの紅茶をカップに注いで自分のスケッチブックを見て溜息をつく。
――帰って描かなきゃな
夏休みを使ってコンクールに出品する作品を描こうと息巻いていたのに全然、筆が進まない。
これだってものが見つからない。
駄目だ。気分まで沈んだら、いいものも描けないよね。
それに、今日はこの喫茶店とマスターさんに出会えたんだ。
良い日だ頑張ろう!
猫型クッキーを一匹だけ囓る。美味しい。
あと二匹は持って帰ろうと、そのまま紙ナプキンに包んでポケットに入れた。
冷めた紅茶を一気に飲むと席を立った。
リュックから財布を取り出して肩に掛け、スケッチブックと借りたタオルを持つ。
「お帰りですか? 雨もすっかり上がったみたいですね」
「はい。紅茶とクッキーとっても美味しかったです」
マスターさんから伝票を受け取り、会計を済ませると私の手にあるタオルに視線が注がれる。
「持って帰ろうとか、そうじゃなくて、持って帰るのか……えっとあの、洗って返します!」
一人であたふたしている私にマスターさんは声を出して笑ってる。
恥ずかしい。
マスターさんが綺麗すぎて、なんか緊張するんだよ。
「フフッ、ではまたのご来店お待ちしています」
私はその場から逃げるように店を出た。
ドアを開くと雨で湿気を帯びた熱気が襲ってくる。
暑い。現実に戻って来た。振り向いて閉まったドアを見る。
喫茶店ダ・ヴィンチは消えてない。
「帰って洗濯しよ!」
私は腕を上げ伸びをしてアパートに向かって歩きだした。
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