第4話

「これ試作品なんですが、よかったらどうぞ」



「わぁ、可愛い!」




 小皿に三匹の猫型クッキーが乗っていた。



 手作りクッキーかな? 私がクッキーに感動していると、彼は照れたように笑った。




「ごゆっくり」




 また奥に行ってしまった。照れたよね?

 格好よくて可愛い人だな。



 私はクスッと笑うと、紅茶の香りに誘われるようにカップに口を近づける。




「熱っ!」




 舌を出してカップを離した。今の見られた? 口元に手を当て、そっと奥にいるマスターさんを見る。



 大丈夫! 気がついてない。ホッとして紅茶に息を掛けて冷ましながら、店内を見渡す。



 入ったときにも感じたけど、不思議な喫茶店。凄く落ち着く。


 内装も素敵で一つの作品の中にいるみたい。



 ここだけが、ゆっくりと時間が流れているように感じる。落ち着いた照明に、壁に掛けられた絵画。



 岩窟の聖母にモナ・リザ。あっちにあるのは、最後の晩餐にウィトルウィウス的人体図。



 どれもレオナルド・ダ・ヴィンチの作品ばかり。




 ダ・ヴィンチが好きなのかな?




 首を傾げて紅茶をすすると、置いたままのメニューが目に入る。




『喫茶店 ダ・ヴィンチ』




 納得。




 私のすぐ近くに掛かっている絵画だけは違っていた。黒い猫が丸まって眠っている作品。



――ダ・ヴィンチの作品に猫はなかった気がするけど?



 本当に気持ちよさそうに眠っている猫の姿は見ていてホッとして思わず笑が出る。



 なにげにストレーナーもクッキーも猫。マスターは猫好き?



 紅茶も美味しいし、本当にいい場所見つけたかも。

 なにより、マスターさんが格好良い。



 一人ひそかに微笑んで紅茶を飲むと、ドアベルの音がする。



 振り返ってドアの方を見ると、お客が入ってくる背に青空が見えた。




――もう雨止んだのか

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