第3話

タオルを受け取り、顔を上げると白いシャツに黒い丈の長いエプロンを付けた男性が微笑んでいた。



 喫茶店のウエイターだろうか?




「あ、ありがとうございます」




 すらっと高い背に切れ長の目。色白で鼻筋の通った端整な顔。



 少しウェーブのかかった髪をしていて、なんとも優しい笑顔に雷を受けたような衝撃。




――綺麗な人 




 私の胸もドアベルのように煩いほど、ドキドキと早鐘を打っていた。





「通り雨でしょう。雨が止むまでゆっくりしていって下さい」



「はい……」




 そう言ってカウンターの方へ歩いて行く後ろ姿にも目が奪われてしまう。




 雨に濡れた体が、エアコンの冷えた風にあてられ、やっと我にかえる。



 受け取ったタオルでスケッチブックを拭いてから、自分の体を拭いた。



 私は空いている隣の席に荷物を置いてカウンターの席に座った。そこにそっと水を置いてウエイターはすぐに奥に行ってしまった。



 流石に何も注文しないで雨宿りだけいうのは気が引ける。



 濡れた服が冷房でやけに冷たくて体が冷えてきた。温かい飲み物でも頼もう。



 店内は珈琲のいい香りがしている。何か注文しようとメニューを探すが、カウンターには砂糖と塩。紙ナプキンが置いてあるだけ。




 珈琲専門の店なのかな? 珈琲はちょっと苦手。



――紅茶はないのかな




「こちら、メニューです。温かい紅茶でもいかがですか?」



「えっ!? あの、じゃあそれで」



「少々お待ちください」




 思考を読まれた? 素敵な笑顔を残しカウンター奥で紅茶を入れる準備をしている。



 年齢は私より少し上だろうか?

 


 ウエイターだと思ったけど、ほかに店員はいないようだし、彼はこの喫茶店のマスター?



 それにしても絵になる人だな。



 ボーッと見入っているとティーセットを持ってやってくる。




「お待たせしました。熱いので気をつけてくださいね」




 カップにストレーナーを引っ掛けてティーポットに入った紅茶を注ぐと、いい香りが立ち昇る。



 ダージリン。私の好きな茶葉だ。

 マスターさんはエスパー?

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