第48話
「うそ……私の体こんな……」
「る、瑠衣。オレのせいなのか?」
二人の目からは涙が流れていた。精神的なものなのか苦痛のためなのかは分からない。
この状況に助かる術が無いと絶望した二人の口から雄叫びのような悲鳴が上がった。
「う~ん。たまらない!!」
よだれを垂らして身悶えるオセに黙って座って見ていたシュトリが口を開く。
「うるさい! くだらない茶番劇は終りか?」
溜息を吐いてシュトリは椅子から立ち上がると、放心状態の瑠衣に近づき再度、胸の状態を確かめる。
血を流し虚ろな意識ながらも、自分の彼女が知らぬ男に胸をまさぐられている姿を見るのは耐え難いものがあったのだろう。
「や、やめろ! 瑠衣にさっ、触るな」
「これは、彼女の思いが叶ったことになるんですかね? あなたに捨てられないように必死だったようですよ。でも、彼女の勘違いのようにも思えますが……」
胸から手を離し、自分の胸の前で腕を組み冷静に分析をするように話すシュトリにオセが答えた。
「欲望を変に隠すから真実が見えなくなったのよ。欲望に忠実な私たちは見誤らない」
「うそ……嘘つき……じゃ、ない」
笑うオセに掻き消えそうな乾いた声で瑠衣が訴えると今度はシュトリが驚いたように瑠衣を見て話す。
「欲望に忠実で嘘つきじゃない。初めから真実しか言っていませんよ……あなたの体のいらない肉を削いであげたでしょう? 美味しそうにあなたも食べていたじゃないですか」
窪んだ眼が大きく開かれ干からびた瑠衣の唇がワナワナと震えあばらよりも凹んだ腹が波打つ。
――あの肉は自分の肉だったの?!
吐き出すような仕草を繰り返すが干からびたような体からは涎と涙しか出ない。
震える瑠衣の干からびた手を隣にぶら下がる真一が何とか手を捕まえて握る。
「瑠衣……瑠衣だけは助けてください」
「こんな時だけ素直になっちゃって……でも、彼女だけは絶対に助からないわね」
「そ、そんな……俺はどうなっても……」
「ふんっ! お前が褒めていた胸に俺も満足している。それに利害が一致して門をくぐったのだろう? もらうものは貰う」
「もん? 門なんて知らない! こんなの望んでない!」
瑠衣がなけなしの命を振り絞り最後の叫びを発するが、オセは冷たく微笑みながら答える。
「私は貴方の望み通りなんて一言も言ってないわよ」
オセの言葉に絶望しきった瑠衣は目の光さえも失い、細い息をしながらお経のように呟く。
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