第45話

入口の上に座る男の顔はいつも真っ黒だったが、どこか侮蔑するように見られている気がして瑠衣は顔を歪める。




「あなたも私が気に入らないわけ?」




 何も答えない男に語りかけ自嘲気味に笑うと男の下をくぐり階段を上って行く。



 少し遅れて追いかけて来た真一が階段を上る瑠衣を見つけ息を切らして入口の前に立つ。




「考える人? なんだっけ……地獄の門?」




 息を整えながら入口の上の男を眺めて呟く。瑠衣を一刻も早く捕まえなくてはと思うのだが、真一はなぜか躊躇ってしまう。




――やばい雰囲気がする。なんでこんな場所に入って行ったんだよ




 冷たい風が吹き抜け身震いすると、意を決して一歩足を踏み入れる。



 全身に鳥肌が立ち異様な雰囲気を感じ取ったが、瑠衣をほっとくことも出来ず階段を上った。



 店の扉を開けると瑠衣が暖炉の炎に照らされ、暗いカウンターに話しかけていた。




「瑠衣なにしてるんだよ。一緒に帰ろう?」



「駄目! 食事……肉を取ってもらうの!」




 刺激しないように普段通りに話しかけるが、瑠衣は目を血走らせ恐ろしい顔をしている。




――どうしちゃったんだよ瑠衣。とにかく早くここから連れて帰らないと。




 真一はずっと鳥肌がおさまらない嫌な雰囲気を肌に感じながら、瑠衣を連れ出す為に店の奥へと足を踏み入れる。



 暗いカウンターから突然、男の声が聞こえ立ち止まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る