第44話
――私は痩せて綺麗になった。誰だって認めてくれる存在なのよ!
会社を出て真一からのメールにも気づかない。いつもよりも早い時間だが、腕に巻かれた黒い革紐に目を止め頷く。
「痩せなくちゃ……店に……」
「瑠衣!」
Derwezeに向かおうとする瑠衣の足が止まる。白い息を吐きながら真一が走ってきてその肩を掴んだ。
細い肩に違和感を感じながら、瑠衣の顔を覗きこんだ真一は目を見開く。
「どうしたんだよ……どっか悪いのか?」
窪んだ目元にこけた頬。髪の毛も艶がなく知らない人が見たら老婆だと言われても頷くだろう。
驚きを隠せない真一に、目をギラギラさせて怒りに任せ瑠衣が口を開く。
「真一までそんなこと……あなたが……あんたが痩せろって言ったんじゃない! 綺麗になったの一言ぐらい言えないの?!」
「何言ってんだよ! その痩せ方はおかしいだろう! どっか悪いんじゃないのか?」
「まだ私おかしいんだ……最後の食事が済んでないからだわ。真一、待っていて。もっと痩せて綺麗になって来るから」
新一が止める手を、折れそうな細い体のからは予想できないの強い力で手を振り払い瑠衣は走り出す。
「瑠衣! 待てってば!」
「行かなくちゃDerwezeに……肉をもっと削いでもらわなきゃ」
制止する声も聞かずに薄暗い路地に走りさって行く瑠衣の姿を、慌てて真一は追いかけた。
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