第42話

会議室から瑠衣の怒鳴り声が漏れ聞こえていたのだろう。オフィスにいる者は全員、瑠衣を見ていた。




――ほら、見てみなさいよ! みんな私を見てる羨望の眼差しで!




 尋常でない様子の瑠衣を周囲が奇異の目で見ていることに気づかない。



 そのまま何事もなかったように仕事を再開すると、肩を叩かれる。




「太井田さん凄く痩せたわね」



「あぁ、小瀬さん。私、小瀬さんよりもずっと細くなったんですよ」




 勝ち誇ったように瑠衣が笑顔を向けると、小瀬は眉尻を下げて大げさに嘆き出す。




「でも、少し痩せすぎじゃない? みんな心配してるのよ」



「心配? 嫉妬の間違いじゃないですか」




 聞く耳を持たず小瀬を鼻で笑うと昨日、ダイエット方法を聞こうとしてきた同僚が口を挟む。




「本当にみんな太井田さんの体を心配してるよ。ダイエットならちょっと遣り過ぎ」



「自分でも気づかない病気かもしれないし、病院に行ってみたら?」



「そうそう、拒食症とかになってたら怖いわよ。少しぐらいぽっちゃりしてる方がいいのよ」




 一人が声を上げると周りもそれに便乗して勝手なことを言い出し、瑠衣を攻め立てる。



 だが、瑠衣はその言葉に腹を抱えて笑い、席を立ちあがると馬鹿にしたように顔を歪めて怒鳴る。




「見苦しい嫉妬! あんた達の肉の付いた醜い体と同じね!」




 狂ったように笑い罵る瑠衣に会議室から出てきた上司は顔を引きつらせ、声を掛ける。




「今日はもう早退していい。病院に行きなさい」



「まだ言って……私は病気じゃない! いいわ、醜い嫉妬に狂う肉がいる会社なんて辞めてやるわ」




 唖然とする上司を血走る目で睨み、荷物をまとめて会社を出て行く瑠衣の姿を小瀬はニヤリと笑い見送ると、誰にも気づかれることなく姿を消した。

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