第33話
「フフッ、秘密」
「えぇ~ずるい! 意地悪しないで教えてくださいよ」
食い下がられどう誤魔化そうかと困っていると、小瀬が来て同僚に書類を渡す。
「これ、休憩あけに使うみたいだからすぐに直して欲しいって」
「マジですか?! 早くご飯食べなきゃ……失礼します」
書類を持ってパタパタと走って行ってしまう。良かったとその背を見ていた瑠衣に小瀬が声を掛ける。
「順調ね。凄く綺麗よ」
「本当ですか? 嬉しい……」
お手本のような美貌を持つ小瀬に褒められると嬉しい反面、恥ずかしくも思えて顔を赤くする。
そのまま一緒に昼ご飯を食べに出て休憩が終わる頃、オフィスに戻る途中でトイレに寄った。
――これもダイエットの影響なのかな? 大のほうが近いんだよね。
朝昼ともにカロリーなど何も気遣うことなく食しているが、その後ミミズのように直ぐトイレに排出されてしまう。
そんな瑠衣がトイレの個室に籠っていると、小瀬のほかに何人かが食後の化粧直しにやって来たのか話し声が聞こえる。
「太井田さんの姿、凄くない?」
「急に痩せて病気かと思った」
まさかの自分の話題にトイレから出るに出られない。そのまま気配を消して会話に耳を傾ける。
「まっ、小瀬さんのスタイルには敵わないよね~」
「嬉しいこと言ってくれるわね。でも、太井田さんもずいぶんと頑張ってると思うわよ」
「でも、まだまだじゃないですか~?」
笑い声がトイレに響き個室で聞いていた瑠衣は俯き腕に巻かれた黒い革ひもを見つめていた。
誰の声も聞こえなくなりトイレの個室から出てきた瑠衣は、手洗い場の鏡に映る自分に囁く。
「もっと痩せなくちゃ……」
はたから見ればもう十分に細くダイエットなど必要ないと言うだろう。
だが瑠衣の虚ろな目には痩せ細った自分の姿が見えていなかった。
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