第28話
「彼氏と別れるのに綺麗な姿を見せたいなと……」
「別れるのに? 虚しいですね。あっ、綺麗な姿を見せれば男が別れを考え直すとか思っているんですか?」
鼻で笑われ憐れむような視線を向けられると瑠衣は顔を真っ赤にして俯く。
――見透かされた
少なからず心の底では自分の綺麗になった姿を見たら心を繋ぎ止めるかもと思っていた。
店で聞こえる唯一のBGMである暖炉の炎が薪を燃やし大きな音を響かせる。
「それでどうするのシュトリ? 私に譲ってくれるの?」
「仕方がない。三日で仕上げましょう。その代わり痩せる部分はこちらで勝手に決めさせてもらいます」
なんとも不服そうな顔で了承するシュトリに気圧されるように瑠衣は顔を上げて「はい」と力なく答える。
その隣で小瀬が満足そうに笑いどこから出したのか赤ワインが注がれたワイングラスを瑠衣の前に置く。
「良かったわね。彼と話す時間ができて」
「はい……ありがとうございます」
勧められるままワインを飲みグラスをテーブルに戻した瞬間に全身を痛みが駆け抜けた。
「いっ、痛っ!」
「それでは、今日の料理を準備しますので少々お待ちください」
瑠衣の痛いという声を全く気にすることなく、いつの間にかまな板の上に現れた肉の塊を持ってシュトリは不機嫌そうに奥へ消える。
隣に座る小瀬はご機嫌で口の端からワインを垂らしながらゴクゴクと飲んでいる。
その姿に驚いているうちに体の痛みは消えていく。
――良かった私の望みは叶いそうだし
ホッと息を吐きもう一口残ったワインを飲む姿を小瀬が口元に垂れた血のように赤いワインを拭って笑みをこぼす。
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