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第22話

「痩せてる! 今日はじめてなのに、この効果はヤバイよね?!」




 瑠衣は脱衣所で全裸のまま体重計にのり鏡で腹部を何度も確認していた。



 店から真っ直ぐ家に帰り妙な気分を洗い流すのにシャワーを浴びた後、体重計に乗りその示す数字に歓喜する。




「明日も絶対あの店Derwezeに行かなくちゃ! でも、変わった店よね……」




腕に巻かれた黒い革ひもを見ながら首を傾げる。人気のない秘密の店で食事を一度しただけでこの効果が得られる。考え出すと怪しいとしか言いようがない。




――代金も満足したらとか……最後にとんでもない額を請求されたりしないよね?




 料理の味はとても美味しかったが、材料としてはそんなに高そうには見えなかった。だから大丈夫だろうと詳しく聞かなかったのだ。




「なんかシュトリさんだっけ? 怖かったし」




 思い出すとブルリと体が震えバスタオルを体に巻きつける。




――いつまでも裸でいたら湯冷めするわ




 体を拭いて部屋着に着替えると携帯電話のメールを知らせる音が聞こえてきた。



 条件反射の様なものなのか悔しいことに真っ先に頭に浮かぶのは真一の顔。



 先ほどまで笑顔の自分を映していた鏡は湯気で曇っていた。



 指で曇を拭って顔が見えても同じように曇った冴えない自分の顔に苦笑いするしかない。



 重い気持ちでリビングに投げ出した鞄から携帯電話を取り出してメールを開く。




「えっ、ウソ!?」




 まさかの真一からのメールに携帯電話を持つ手が震える。深呼吸を一つしてスクロールしてメッセージを読む。




『話したいことがある。三日後の夜に会える?』




 謝罪など一切ない冷たい文面に会社の前でみた真一の浮気現場が脳裏に浮かび、覚悟はしていたがショックが隠せなかった。




「別れ話かな……なんか悔しいな」




 我慢した挙句に若い女の子に鞍替え。自分は真一に指摘されてダイエットをしている。




――なんか馬鹿みたいだな




 色々なことが整理できず溢れる気持ちが携帯電話の画面を濡らす。



 強がっていても心の半分には真一が当たり前のように住みついていた。




――だから流されて我慢して




 瑠衣は顔を上げて涙を拭うと腕に巻かれた黒い革紐を見つめる。




「最後くらい痩せて綺麗になった姿を見せて、なんでもない風に笑ってやるんだから!」




 その言葉に瑠衣の腕で黒い革紐が笑っているように揺れた。

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